大阪大学大学院医学系研究科の大西伸也氏、救急医学教授の織田順氏らの研究グループは、阪大微生物病研究会、地域医療機能推進機構(JCHO)中京病院との共同研究により血液中の3つの蛋白質が熱傷深度Ⅱ以上、熱傷範囲20%以上の重症熱傷患者の転帰に関与していることを明らかにしたと、iScience(2023; 26: 107271)に発表した。これまで重症熱傷患者の血中蛋白質と病態との関連が指摘されていたにもかかわらず、網羅的な測定や統合解析は行われていなかった。

転帰を示す蛋白質の発現量が受傷当日に変化

 重症熱傷は集中治療を要する一般的な外傷の1つで、循環動態、代謝変化などを引き起こす。死亡例もいまだ少なくないため、生体内での変化の解明および関連する物質の探索が求められていた。

 研究グループは、重症熱傷患者83例の受傷日の血液検体及び健康ボランティア10例の血液検体を用い、642種の蛋白質について解析し比較した。その結果、受傷日時点で転帰に関わる可能性がある蛋白質10種を同定。中でも関連が強かったのは赤血球中のヘモグロビンの構成成分であるHBA1、栄養状態に関連するトランスサイチレン(TTR)、凝固線溶系に関連するa2アンチプラスミン(SERPINF-2)の3つだった。

 研究グループは、これらの蛋白質濃度に基づき患者を3群に分け、潜在クラス分析を行った。その結果、HBA1の発現量が高くTTR、SERPINF2の発現量が低いサブグループは死亡率が高かったのに対し、TTR、SERPINF2の発現量が高いサブグループは受傷28日後時点でほとんど死亡していなかった。これらの蛋白質の発現量は、受傷日から既に変化が見られた。

 以上の結果から、研究グループは、「HBA1、TTR、SERPINF2は、重症熱傷患者の予後予測マーカーとなりうる」と結論。これらの蛋白質を標的とした新たな治療方法の開発や創薬につながれば、急性期における治療のブレークスルーが期待できると展望している。

栗原裕美