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岐阜大学、新たに創薬・先端医療研究教育拠点を設置 ~異分野の研究者が連携し、医療を変革しうる創薬シーズを開発・育成~

 東海国立大学機構岐阜大学では,2023年1月1日(日),高等研究院に『One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター』を設置しました。これにより創薬・先端医療研究を加速させます。

 【ポイント】

 ・同センターでは岐阜大学に加え,機構内の名古屋大学,隣接する岐阜薬科大学の医学・獣医学・薬学・工学等の研究者が,分野横断的かつ国内外の施設横断的に連携し,創薬シーズの開発・育成を行います。

 ・「ヒトと動物の疾病は共通」、すなわちOne Medicineという視座のもと,ヒトの疾患を精緻に模倣する疾患モデルに,量子技術やAI等を駆使した先端医療機器を組み合わせ,臨床応用が期待できる創薬シーズを高度に選別します。

 ・ヒトはもちろん,動物福祉の普及に伴い社会的地位が高まる犬や猫などの伴侶動物に対する治療薬や予防薬,診断薬の開発・育成にも取り組みます。

 ・創薬シーズの開発・育成から治験まで創薬研究のマネジメントを行う人材育成のための実践的プログラムを開講し,大学・研究機関や企業,行政等に輩出することでも,わが国の創薬研究に貢献します。

 【センター設置の背景と今後の展望】

 わが国では、脂質治療薬の「スタチン」やがん治療薬の「免疫チェックポイント阻害薬」など、世界の医療を革新する医薬品を過去には創出してきました。しかし、近年、わが国の課題であるライフサイエンス分野の研究力低下が医薬品開発を担う「創薬研究」にも影を落としつつあります。実際、新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に対してワクチン・治療薬の創出では、世界に大幅な後れをとりました。創薬研究における、わが国のプレゼンス維持は今後きわめて困難といえます。このような現状を打破するには、膨大な資金と労力を要する創薬研究の仕組みを変革することが急務です。特に、基礎研究の成果にもとづいて開発する医薬品の種(たね)「創薬シーズ」が、ヒトで安全に使用できるかを実験動物で評価する「非臨床試験」、そしてヒトにおいて安全かつ有効に病気を治療できるかを病気のある人で評価する治験における成功率を飛躍的に向上させる必要があります。

 東海国立大学機構では,糖鎖生命コア研究所や名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所に代表される国際卓越性のある研究グループが,将来,医療を革新する可能性を秘めた基礎研究の成果を多数輩出しています。さらに,非臨床試験や治験の実施を支援する「橋渡し研究支援機関」注1)や「臨床中核研究病院」の認定を受ける名古屋大学病院を中心に,岐阜大学病院や愛知県・岐阜県の関連病院が地域一体型の治験体制を構築し,スピード感のある創薬研究が可能な状態にあります。ここに,岐阜大学高等研究院に新たに設置された『One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター』が加わり,岐阜大学,名古屋大学,さらには岐阜薬科大学の多様な分野で活躍する研究者が,有機的な連携を強化し,創薬シーズを開発・育成をすることで,基礎研究の成果を一気通貫で臨床応用するために必要な研究基盤が整います。これは,創薬研究におけるわが国の国際競争力を高めると共に,東海地域の創薬産業を飛躍的に発展させ地域創成に貢献するという,東海国立大学機構の『創薬・先端医療研究戦略構想』の実現に向け,重要な一歩といえます。


  『One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター』では,四つの部門(動物医科学研究開発部門,革新的モダリティ創出部門,先端医療機器開発部門,リサーチマネージメント部門)を設置し,「ヒトと動物の疾病は共通」、すなわち「One Medicine」という視座にたち,医学・獣医学・薬学・工学等の研究者が分野横断的かつ国際共同を含めた施設横断的な強固な連携のもと,比較医学に基づくオーダーメイド型疾患モデル動物注2)と量子MRI注3)をはじめとする新規先端医療機器の開発を強みに、核酸からたんぱく質、細胞、人工バイオマテリアルまで多様なモダリティ注4)による創薬シーズの開発・育成を強力に推進することで、非臨床試験、治験において成功率の高い有望なシーズを多数投入可能な体制を構築します。また,センターでは,国内外の大学・研究機関や企業等と密に連携し,創薬シーズの企業導出,知財・大型予算獲得,大学発ベンチャー創設を積極的に行ってまいります。さらにセンターでは,ヒトの病気はもちろん,動物福祉の普及に伴い社会的地位が高まるイヌやネコなどの伴侶動物に対する治療薬や予防薬、診断薬の開発・育成にも取り組みます。「One Medicine」の視座のもと,国際的に後れをとる医薬品開発の成功率を高めるだけでなく、ヒトと動物の疾病を共通する医薬品・医療機器を用いて治療していく『Sharing Medicine(人獣共通医療学)』という新たな学術領域を開拓してまいります。
 


 センターでは、創薬・先端医療研究を担う人材育成にも注力します。岐阜大学の「G-YLCプログラム」注5)(世界トップレベルの研究を目指す卓越した若手研究者に研究に専念できる研究環境のもと最大限に能力を伸ばすことができるよう支援するプログラム)を拡充した「G-YLC(ライフサイエンス分野)」を活用し,ライフサイエンス分野で活躍する国内外の若手研究者を招聘(しょうへい)し,世界トップレベルの研究成果を恒常的に発信できるよう、研究環境等について充実した支援を提供します。さらに,「創薬リサーチマネジメント人材実践的育成プログラム」を開講し,創薬シーズ探索から治験までのすべてのステップを総合的に理解した上で、それぞれの連携を強化・管理できる人材の育成に取り組みます。創薬シーズ探索から臨床研究までの各ステップに関する総合的な知識を醸成するための科目により構成され、講義に加えて、実習やグループ討論を積極的に採用します。また、製薬企業担当者の参画を通して、ヒト用および動物用医薬品等の開発課題などを教材とした、「現場目線」の実践的な教育を実施します。本プログラムで育成される人材は、製薬企業等のリサーチマネジメント担当者、大学のURA注6)、厚生労働省・農林水産省の薬事担当者、企業・大学・研究所の創薬研究者などとして、社会に貢献することが期待されます。


  注1)橋渡し研究支援機関:さまざまな基礎研究から得られた有望な化合物等を含む成果を、実際の医療現場で活用できるように、効率的・効果的に実用化につなげることを目的とする研究(トランスレーショナルリサーチ)を支援する大学等のうち、一定の要件を満たす機能を有することを文部科学大臣により認定された機関

 注2)オーダーメイド型疾患モデル動物:ゲノム編集などの遺伝子改変技術や、薬物処理等を使用し、ヒトや動物の疾患に類似した病態を呈するように人為的に操作された実験動物

 注3)量子MRI:核磁気共鳴画像化法(MRI)を、最先端の量子技術で飛躍的に高感度化して機能や代謝画像を取得できるMRI装置

 注4)モダリティ:特に創薬研究において、従来からある低分子医薬品だけではなく、核酸医薬品や抗体医薬品などを含む医薬品の創薬基盤技術の方法や手段の分類を表す用語

 注5)G-YLCプログラム:Gifu University-Young Leaders Cultivationの頭文字からとった略語で、岐阜大学における若手研究者育成プログラムのこと

 注6)URA:University Research Administratorの頭文字からとった略語で、大学等の研究組織において、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化を支える業務に従事する人材のこと

【問い合わせ先】

<センターに関すること> 
岐阜大学高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター センター長 
岐阜大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学 教授
矢部大介
電話:058-230-6377
E-mail:ydaisuke@gifu-u.ac.jp

<報道に関すること> 
岐阜大学総務部総務課広報グループ
電話:058-293-3377
E-mail:kohositu@gifu-u.ac.jp



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