富山大学病院周産母子センターセンター長の吉田丈俊氏らは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加した6万5,000組超の母児を対象に、帝王切開による出生と児の3歳時点における神経発達との関連および性差を検討。女児では経腟分娩に比べ、帝王切開で出生した場合に自閉スペクトラム障害(ASD)と診断される頻度が有意に高かったとBMC Pediatr2023; 23: 306)に報告した。

発生頻度の男女差は不明

 近年、帝王切開で出生した児において、運動発達の遅延や知的障害、ASDといった神経発達障害の増加が報告されている。しかし、多くが欧米からの報告で、日本を含むアジアでの状況は分かっていなかった。また、帝王切開と神経発達障害の関連が児の性により異なるかは明らかでない。

 そこで吉田氏らは今回、エコチル調査に参加した6万5,701組の母児を対象に、帝王切開児と児の3歳時の神経発達障害との関連および性差について検討した。分娩様式は出産時のカルテで確認し、児の神経発達は保護者が回答した運動発達遅延、知的障害、ASDに関する診断の有無に基づき評価した。母親の年齢や合併症、既往歴、出産歴、社会経済状況、飲酒歴、喫煙歴、児の在胎週数、出生体重などを調整変数とした。ロジスティック回帰分析により、調整オッズ比(aOR)を算出した。

男女とも知的障害は帝王切開と関連せず

 解析の結果、帝王切開の出生とASDに有意な関連が示された(aOR 1.38、95%CI 1.04〜1.83)。一方、運動発達遅延(同 1.33、0.94~1.89)や知的障害(同1.18、0.94~1.49)との関連は認められなかった(図1)。

図1. 帝王切開による出生と3歳時の神経発達障害の関連

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 男女別に見ると、帝王切開で出生した女児は、運動発達遅延(aOR 1.88、95%CI 1.02~3.47)、ASD(同1.82、1.04~3.16)との有意な関連が示されたが、知的障害(同1.35、0.88~2.08)との関連は示されなかった。男児では神経発達障害との関連は認められなかった(図2)。

図2. 男女別に見た帝王切開と神経発達障害の関連

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(図1、2とも富山大学プレスリリースより)

男児はASD診断の多さが影響した可能性も

 吉田氏らは研究の限界として、①運動発達遅延、知的障害、ASD診断の経緯は不明、②ASDと診断されていない児がいる可能性、③観察研究であるため因果関係は不明、④帝王切開が選択か緊急かは不明―を挙げた。その上で「女児では経腟分娩での出生に場合に比べ、帝王切開による出生例で運動発達遅延およびASDと診断される頻度が高かった」と結論。「男児は女児に比べASDの診断が多いため、帝王切開の影響が小さかったことも考えられる。引き続き学童期に同様の解析を行うなどして研究を続けていきたい」と展望している。

(平吉里奈)