がん治療に広く用いられている免疫チェックポイント(CP)阻害薬は、重篤な副作用として心筋炎を引き起こす可能性がある。しかし、心筋炎を起こしやすい患者像は明らかでない。岡山大学病院薬剤部講師の濱野裕章氏らは医療情報ビッグデータを用いた解析により、心筋炎の発症リスクとなる免疫CP阻害薬の併用薬を特定したと、Int J Cancer2023年6月12日オンライン版)に報告した。

WHOのVigiBaseを利用

 これまでに濱野氏らは、免疫CP阻害薬誘発心筋炎の危険因子について検討を行ってきた。しかし、発症は非常にまれであり、日本国内での症例データは十分に蓄積されていない。

 そこで同氏らは、数千万件の副作用報告が蓄積されている世界保健機関(WHO)の有害事象報告システムVigiBaseを用いて、免疫CP阻害薬誘発心筋炎の発症状況を詳細に解析。免疫CP阻害薬にどのような薬剤を併用すると心筋炎リスクが上昇するかを検討した。

サイアザイド系利尿薬の併用でORが1.67に

 解析の結果、2022年12月までに免疫CP阻害薬を使用した9万611例のうち、975例が心筋炎を発症した。

 不均衡分析の結果、免疫CP阻害薬とサイアザイド系利尿薬の併用で心筋炎リスクが有意に上昇した(報告オッズ比1.76、95%CI 1.20~2.50、P<0.01)。また、ループ利尿薬との併用でも同様に有意なリスク上昇が示された(同1.47、1.02~2.04、P=0.03)。

 年齢や性、他の利尿薬併用などの影響を調整した多重ロジスティック回帰分析では、免疫CP阻害薬とサイアザイド系利尿薬の併用による心筋炎リスクの有意な上昇との関連は維持された(オッズ比 1.67、95%CI 1.15~2.34、P<0.01)。

 今回の研究について、濱野氏らは「免疫CP阻害薬誘発心筋炎リスクを上昇させうる併用薬を特定した。この知見は、個々の患者の状態に合わせた最適な薬物療法を選択するのに役立つ。すなわち、心筋炎の予防を視野に入れた個別化治療の推進に寄与するものである」と結論している。

(比企野綾子)