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100人に6人がうつ病経験
~社会経済的損失は2兆円~

 日本人の100人に約6人がうつ病を経験したことがある、という調査報告がある。1日中気分が落ち込んだり、眠れなかったり、食欲がなかったりするのが症状で、発症の原因はよく分かっていない。仕事や家庭生活などにおける「負のインパクト」は大きいが、周囲からは患者本人の苦しみは理解されにくい。専門家やうつ病の経験者らによるセミナーから社会復帰への課題を探った。

「気分障害」などの増加が目立つ

 心の病気の中で「気分障害など」は1996年の43万3000人から2014年に111万6000人、17年には127万6000人に増加した。気分障害と呼ばれるうつ病(大うつ病性障害)と双極性障害が数字を押し上げている。

 世界保健機関(WHO)は30年に、大うつ病性障害が虚血性心疾患や交通事故、脳血管疾患を上回り、「健康な生活を障害する疾患」の第1位になると予測している。医療法人石郷岡病院理事長で精神科医の石郷岡純(いしごうおか・じゅん)氏は「日本の場合、うつ病による社会経済的損失は約2兆円に上る」と言う。

石郷岡純氏

 ◇「社会機能」を障害

 職場や家庭などで社会的役割を果たすための個人の能力を「社会機能」という。うつ病になると、この社会機能が障害される。症状が一時的に軽くなったり、消えたりした状態である寛解に至っても、「社会機能が100%回復しているわけではない。社会機能の改善は症状の改善ほど進まない」と石郷岡氏は強調した。

 石郷岡氏はインターネットによるアンケート調査を基に「気分症状や身体症状については、医師と患者の意識に大きな差はない」と指摘した。問題は社会機能に関してだ。重症期、軽症期、軽快期のどの段階でも、患者は「悪くない」と楽観的に捉えている。一方、医師は症状のどの段階でも「悪い」とみており、認識のギャップがある。石郷岡氏は「医師は患者が元の生活に戻れるかどうかを重視している」と話す。

林晋吾氏

 ◇うつ病で会社を辞める

 うつ病患者の家族向けのコミュニティーサイトを運営するベータトリップ代表取締役の林晋吾さんはうつ病の経験者だ。大学卒業後、ある大手企業に就職。入社5年目に新しいセクションに配属されたが、仕事に慣れないことなどが原因で眠れなかったり、食事が喉を通らなかったり、読んでいる新聞や本の内容が頭に入らなかったりした。パニック障害だった。2~3カ月間、仕事を休んだ後で復職したが、仕事のミスがきっかけで気持ちが落ち込み、心身の不調が続き、出社できなくなり、うつ病と診断された。7年務めた会社を辞め、大阪の実家に戻った。

 4カ月後に東京で再就職したが、上司からミスを叱られたことで仕事ができなくなり、また離職に追い込まれたという。

野崎卓朗氏

 ◇復職焦るのは危険

 精神面の不調で体調が悪くなると、雇っている企業は無理をさせられないと考える。昇進を見合わせたり、離職もやむを得ないと判断したりすることもある。産業医の野崎卓朗氏は「そういう事例をしばしば見てきた」と言う。

 社会機能を回復させていく。最初にうつ病などを発症した時に、ライフスタイルや価値観、物の考え方を変えていく。それには自分自身で向き合うエネルギーが求められる。本人の努力、医師の力に加えて周囲のサポートが欠かせない。

 うつ病の患者にとって、長期間会社を休むのは初めてというケースも多い。早く仕事に戻らないと、自分の席が無くなってしまうという焦りもある。野崎氏によれば、「戻らなければいけないのです」と言って復職するケースがよくあるという。しかし、それは必ずしも良い結果につながらない。

 林氏も「主治医は職場復帰に慎重だったが、私は大丈夫だと思い込んでいた。医師から見た状態とギャップがあった」と言う。

 ◇自身を客観視

 石郷岡氏は「医師と患者のコミュニケーションが大事だ」とした上で、「自分自身の状態をうまく把握し、客観視できることが改善につながる」と話した。野崎氏も「自分自身を客観視できるかどうかが、社会機能回復へのく大きな指標だ」と強調した。

 林氏は「復職の時に、母親からは『ちょっと早いのではないか。つらそうに見える』と言われた。やはり周囲の人の声に耳を傾けることが大事だと思う」と体験を基に語った。

 ◇患者に言ってはいけない言葉

 うつ病になっても、所属する会社や組織、団体に復帰したいという気持ちは強い。その際、上司や同僚が避けるべき禁句があると野崎氏は言う。

 「戻ったら、こうしようよ」

 「あの時は私が悪かったな。ごめんね」

 このような言葉は、逆に本人を落ち込ませてしまうことになる。

 「大丈夫、待っているから。安心して休んでほしい」。

 こういった言葉が効果的だ、と野崎医師はアドバイスした。(了)

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