カナダ・University Health Network(UHN)のMiguel García-Pardo氏らは、進行肺がん疑い例に血中循環DNA検査(リキッドバイオプシー)を実施する非ランダム化試験ACCELERATE(Accelerating Lung Cancer Diagnosis Through Liquid Biopsy)の結果、組織採取による遺伝子検査を行った参照コホートと比べ、治療開始までの期間が著明に短縮したとJAMA Netw Open(2023; 6: e2325332)に報告した。

組織を使った遺伝子検査はTATが長い

 進行非小細胞肺がん(NSCLC)の治療方針決定には腫瘍遺伝子変性(tumor molecular alterations)に関する情報が不可欠であり、腫瘍組織の遺伝子検査(molecular testing)が、病理診断や遺伝子型判定(ジェノタイピング)の標準となっている。しかし、腫瘍組織を用いた遺伝子型判定は結果が出るまでの時間(turnaround time;TAT)が長いという欠点があり、個別化治療/分子標的療法実施の障害の1つとなっている。

 患者の血漿から循環腫瘍DNA(ctDNA)を同定するリキッドバイオプシーは、侵襲性が低い検査であり、進行NSCLCにおいても血漿ctDNAの有用性は腫瘍組織を用いた遺伝子型判定に劣らないことが報告されている(JAMA Oncol 2019 ;5: 173-180Clin Cancer Res 2019; 25: 4691-4700)。 

 García-Pardo氏らは、2021年7月1~22年11月30日にUHN Lung Rapid Assessment and Management Program(LungRAMP)に紹介され、①切除不能のステージⅢ/Ⅳ肺がんを示唆するX線所見がある、②CTで1cm以上の測定可能病変が確認されている、③NSCLC未診断だが組織生検が予定されている/実施済みである―のいずれかを満たす患者をACCELERATEコホートとして登録。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック前の2018~19年に同プログラムに紹介された連続症例を参照コホートとして比較した。COVID-19パンデミック前の2018~19年に同プログラムに紹介された連続症例を参照コホートとして比較した。参照コホートでは組織生検による診断後、組織検体を用いた遺伝子型判定のみが実施された。

治療開始までの時間は参照コホート62日、ACCELERATEコホートで39日

 ACCELERATEコホート150例〔年齢中央値68歳(範囲33~91歳)、男性80例(53%)〕の末梢血を採取し、InVisionFirst-LungによるctDNA検査を実施した。InVisionFirst-Lungは37の遺伝子を標的とする次世代シークエンス(NGS)ベースのリキッドバイオプシー検査で、進行NSCLCにおいて治療の余地がある遺伝子変性(actionable alterations)の同定に有用であることが報告されている。参照コホートは89例で、年齢〔中央値68歳(範囲39~91歳)〕、男性〔42例(47%)〕、その他の背景は同等だった。

 主要評価項目とした紹介から治療開始までの時間は、参照コホートの62日(四分位範囲 44~82日)に対し、ACCELERATEコホートでは39日(同27~52日)と有意に短かった(P<0.001)。

組織検査の補完として期待

 ACCELERATEコホートにおけるTATは、組織を使ったNGS(Oncomine Comprehensive Assay v3)で23日(四分位範囲18~28日)に対し、血漿検査(リキッドバイオプシー)では7日(同6~9日)と有意に短かかっ(P<0.0011)

 150例中90例が進行非扁平上皮NSCLCだったが、そのうち21例(23%)は組織NGSの結果を待たずに分子標的治療を開始した。また、11例(12%)のactionable alterationsは、リキッドバイオプシーでのみ同定された。

 以上の結果を踏まえ、García-Pardo氏らは「進行NSCLC疑い例へのリキッドバイオプシー施行により、治療開始までの時間を短縮することができた」と結論。「単施設での報告という限界はあるが、組織検体を使う標準的な遺伝子検査を補完するものとして、リキッドバイオプシーの有用性が示された」と付言している。

木本 治