こちら診察室 がんを知ろう

医療従事者や元患者が話す
~がん教育の現場から~ 第10回

 学校でのがんに関する授業や、厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」などにおける企業でのがん啓発事業、その他の講演などで、医療従事者やがんを経験した元患者(サバイバー)らの話を聞くことがたびたびあります。その中の一つ、東京都教育庁主催で都立公立学校の教員向けに開かれた健康問題に関する講演会でのことです。

 南谷は「がんについての正しい知識の理解」というタイトルでがん教育について講演しました。同じ会で、国立成育医療研究センターの荒田尚子先生が「プレコンセプションケア」について講演されました。「妊娠前の健康管理」という意味だそうです。

 講演で荒田先生は「日本では妊婦や出産直後の新生児の死亡率は減ってきているのに、女性が持つリスク因子が原因とされる新生児の先天異常や標準に比べて、著しく軽い体重で生まれてくる低出生体重児の数は減っていない」と説明されました。その上でこれらの問題に対しては、妊娠前から健康状態やリスク因子を把握して、早めにケアを始めることが重要だということを、丁寧かつ分かりやすく説明され、大変勉強になりました。

 その一方、医師として日常業務で関わることがない領域であり、聞き手としてなじみがないと感じたことも事実です。多分、南谷のがんの話についても、日頃から取り組んでいる医師や教員以外の方には同様に感じられたかもしれません。この経験もあって、自分たちが取り組んでいるがん教育の分野では、子どもたちにとって自分事と考えられるような授業を行うことが重要だと改めて感じました。

 ◇多彩な外部講師たち

 がん教育の外部講師は医師だけではありません。看護師や薬剤師、がんに関わる医療従事者、サバイバーらが授業をする場合もあります。がんに対する関わりや捉え方が立場によって違うため、それぞれの専門性を生かして授業をすることが目的で、文部科学省のガイドラインにも記載されています。

 実情はどうでしょうか。2021年度の報告では、がん教育への外部講師の参加は8.1%とごくわずかでした。さらに講師の立場ごとに見れば、医師が40%、薬剤師が14%、保健師と看護師がそれぞれ10%、がん経験者が23%―となっていました。このほかに、がん患者の家族や一般社団法人「全国がん患者団体連合会」(全がん連)、公益財団法人「日本対がん協会」なども積極的に取り組んでいます。

 確かに医師の比率が最も高いのですが、それでも半分以下。さまざま職種や属性の人が担っている現状が見えてきます。

 ◇生徒に考えてもらう

 南谷は、がん教育の授業の際には分かりやすく話すのが最も重要だと考えています。その一方で、医師として実際に診療をした話に加えて、データ(エビデンス)に基づいてグラフや表を作って、予防法や検診の効果などを説明します。また、白衣を着ることで少しでも印象に残るようにし、聞き手に対して質問を投げ掛けたり、聞き手側が患者や家族などの立場に立ってがんについて考えるロールプレーの時間を設けたりして、いろいろと考えてもらうことも意識しています。

がん教育の流れと目標

がん教育の流れと目標

 例えば、乳がん患者が近年増加していること、乳がんは女性ホルモンが影響するがんで、生理の回数が増えることがリスクになることを説明します。その上で、「なぜ乳がんが増えてきているのか」と問い掛けます。もちろん、この質問への回答は簡単ではないのですが、「最近ニュースで話題になっている」などとヒントを与えると、勘の良い生徒からは「少子化」というキーワードが出てきます。

 妊娠すると一定期間生理が止まるため、出産経験がない人に比べて乳がんのリスクは低くなります。ただし、それだけではなく、初経が早くなり、閉経が遅くなったことも乳がんの増加につながっていることを補足します。

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