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めまいと訪問診療
~自宅でリハビリ~ 第7回

 これまでめまいの原因や考え方、疾患、対処法などについて述べてきました。ここで少し復習してみましょう。

 めまいは、急性期の救急受診により初期診断・初期対応が始まります。その後、病気が徐々に進行する亜急性期の生活習慣改善・内服治療となり、慢性期ではリハビリテーション治療に移行します。内耳性のめまいは一部、病状が長引くことがありますが、ほとんどは予後が良好です。しかし、脳血管障害後遺症としてのめまい、特にフワフワめまいについては、なかなかそうはいきません。何らかの理由で通院困難な場合は医療機関を受診することができないことも多々あります。

 そこで今回は、往診から始まる訪問診療(在宅医療)の現況を含めて考えてみましょう。

訪問リハビリテーションの対象者・内容

訪問リハビリテーションの対象者・内容

 ◇往診から入院へ

 そもそも日本の医療に関する最初の本格的な記述は、928年、平安時代の「医心方」にさかのぼります。内容の中心は、はり・きゅう、マッサージ、漢方に関する記述です。しかし、特権階級への医療で庶民には縁遠いものでした。鎌倉時代には武士や僧侶など誰もが医師を名乗り、主に呪術、漢方薬中心に医療がなされていました。これらは往診というスタイルで行われていたのです。

 江戸時代になると蘭学が入り、大きく医療が進歩しました。1712年、医師の貝原益軒によって書かれた「養生訓」の中の「医は仁術」という言葉はあまりにも有名です。それまで医療は特権階級のみが享受していたところへ、金持ちには医療費を高く、貧しい人からは金を取らないという精神が芽生え始めたのです。その10年後、東京・小石川に、わが国最初の病院「小石川養生所」が誕生し、貧しい人を入院させて看護や医療を行ったのです。往診というスタイルから、入院で医療を施すというスタイルが生まれ始めたのです。

 ◇在宅医療の普及・推進

 そもそも往診とは、通院できない患者の要請を受けて、医師がその都度赴いて行う診療を指します。現在でも、突発的な病状の変化に対して救急車を呼ぶほどでもない場合などは、かかりつけ医に依頼して診察に来てもらいます。基本的には困ったときの臨時の手段になり、定期的な診療とは異なります。健康保険の診療内で行われますが、別途、往診料がかかります。

 このように、古くから患者や家族の要請で医師による往診は行われていましたが、急性疾患への一時的な対応にすぎませんでした。では、現代で進められている在宅医療とはどう違うのでしょうか。

 患者の居宅が医療提供の場として制度上認められたのは1992年のことです。その背景には、人口構造の変化に伴う疾病構造の変化や慢性疾患の増加がありました。現在、居宅における医療、すなわち在宅医療の普及・推進は国家的方策となっています。全国での在宅患者数は、2030年にピークを迎えることが見込まれます。

 この場合の訪問診療とは「毎週○曜日の○時に」というように、あらかじめ約束して医師が訪問の上、診療する医療となります。定期的かつ計画的に訪問し、診療、治療、薬の処方、療養上の指導などを行います。薬についても自宅に届けてくれることになります。訪問診療を行っている医療機関との契約が必要になります。医療費は、やはり健康保険による保険診療内で行われますが、外来通院の場合と異なるのは、別途、訪問診療料がかかる点です。

 ◇訪問リハビリテーション

 病院や診療所、介護老人保健施設に所属する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が利用者の自宅を訪問し、心身の機能の維持・回復、日常生活の自立を支援するために、理学療法や作業療法などを行うのが訪問リハビリテーションです。直接のリハビリテーション以外にも、介護する家族へのアドバイスをしたり、相談に応じたりもします。

 病院やリハビリテーション施設への通院が困難な場合、退院・退所後の日常生活に不安がある場合など、主治医により訪問リハビリテーションの必要性が認められると、このサービスを利用することができます。

 対象となるのは、筋力が低下して歩きにくくなり、体の一部にまひや拘縮がある人や、聞こえが悪い(聴覚に異常がある)人、めまいでふらつく人などです。また、加齢や神経障害で食べ物を飲み込むのが難しくなった(嚥下=えんげ=障害がある)人や言葉をはっきりと発せられなくなった(言語障害がある)人なども対象となります。

 具体的なリハビリテーションとしては、歩行、寝返り、起き上がり、立ち上がり、座るなどの機能や、食事、排せつ、着替えなどの生活動作の訓練が一般的です。難聴への対策(補聴器装用指導)、めまい・ふらつきに対応する訓練(体平衡バランス強化訓練)、言語機能や嚥下機能の訓練なども含まれ、必要に応じて専門の療法士が指導していきます。

 この中で、耳鼻咽喉科による訪問診療で扱う疾患については、乳幼児に多い中耳炎や高齢者がほとんどを占める嚥下障害が多く見られます。現在の在宅診療は主に内科が中心で、耳鼻科はほとんど参加していません。しかし、これらの疾患の特性もあるのでしょう、患者の9割が耳鼻咽喉科の参画を希望しているというアンケート調査の結果もあります。

 さらに、今回取り上げているめまいや平衡障害は外出が極めて難しい病気ですし、補聴器を必要とする難聴患者も簡単には出歩けません。これら医療機関を受診できない患者などが増えていくことでしょう。江戸時代に始まった往診(訪問診療)スタイルへと復古しているとも言えるでしょう。(了)

 坂田英明(さかた・ひであき)
 川越耳科学クリニック院長、埼玉医科大客員教授。元目白大学教授。日本耳鼻咽喉学会専門医、日本聴覚医学会代議員。日本小児耳鼻咽喉学会評議員。1988年埼玉医科大卒、91年帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手、2005年目白大教授、15年より現職。小児難聴や耳鳴りなどの治療に積極的に取り組み、著書多数。近著に「フワフワするめまい食事でよくなる」(マキノ出版)。


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