米・Mayo ClinicのIrbaz B. Riaz氏らは、がん関連血栓症(cancer-associated thrombosis;CAT)患者5,000例超を対象に抗凝固療法の現状を把握する後ろ向き研究を実施。その結果、「実臨床においてCAT患者への抗凝固薬の投与期間はかなり短いこと、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)は静脈血栓塞栓症(VTE)、大出血、死亡率の低下と関連することが判明した。また、DOACに禁忌の患者や低分子へパリン(LMWH)治療の遵守が不良な患者には、今でもワルファリンが考慮されているようだ」とJAMA Netw Open2023; 6: e2325283)に報告した。

償還データベースから抗凝固薬の使用状況を検討

 CATにはさまざまな要因が関与し、複雑な病態であるため管理が難しいとされる。20年近くの間、CLOT試験の結果に基づきCATに対しLMWHが推奨されてきたが(N Engl J Med 2003; 349: 146-53)、LMWH製剤を用いたその後の試験では有効性が再現されなかった。

 最近報告された複数のランダム化比較試験(RCT)の結果、CATの急性期治療としてDOACが非経口ヘパリン製剤ダルテパリンの代替薬になりうることが示唆され、診療ガイドラインでも推奨されている。しかし、一般のがん診療現場では依然としてワルファリンが多用されており、実臨床におけるこれら3クラスの抗凝固薬の使用状況は明らかでない。

 Riaz氏らは今回、米国の医療費償還データベースOptum Labs Data Warehouseを用いて、皮膚がんを除く18歳以上の原発がん患者におけるCATに対する抗凝固薬の使用状況と有効性を比較検討した。

DOACはVTE再発や大出血による入院リスク低い

 2012年1月~19年9月にVTEの発症が確認された5,100例(平均年齢66.3歳、女性52.4%)を解析対象とした。抗凝固療法の内訳は、DOACが2,512例(49.3%)、LMWHは1,488例(29.2%)、ワルファリンは1,460例(28.6%)だった。

 治療期間の中央値は、DOAC群が3.2カ月(四分位範囲1.0~6.5カ月)、LMWH群が1.8カ月(同0.9~3.8カ月)、ワルファリン群が3.1カ月(同1.0~6.8カ月)、だった。

 多項ロジスティック回帰分析により、LMWHまたはワルファリンの投与と関連する因子のオッズ比(OR)を算出した。その結果、LMWH投与と肺がん(OR 2.07、95%CI 1.18~3.65)、泌尿器がん(同1.94、1.08~3.49)、婦人科がん(同4.25、2.31~7.82)、大腸がん(同2.29、1.21~4.32)に関連が認められた。

 有効性に関しては、DOAC群に対しLMWH群とワルファリン群では、VTEの再発リスクが高かった〔LMWH群:ハザード比(HR)1.47、95%CI 1.14~1.90、ワルファリン群:同1.46、1.13~1.87〕。

 安全性に関しては、DOAC群に対しLMWH群では大出血リスク(HR 2.27、95%CI 1.62~3.20)と全死亡リスク(同1.61、1.15~2.25)、大出血による入院リスクが高かった(同2.27、1.62~3.20)。

がん種や患者背景別のさらなる検証が必要

 以上の知見を踏まえ、Riaz氏らは「DOACの総合的な有効性と安全性が裏付けられた。DOACはLMWHに比べVTEの再発リスクが50%近く低減し、大出血による入院リスクは2半分以下だった」と結論。

 DOACはCATに対して最も選択されている抗凝固薬であり、ガイドラインでも推奨されているにもかかわらず、今回のコホート研究ではDOAC使用例は過半数に満たず(49.3%)患者が約半数で、3分の1弱の患者にはLMWH(29.1%)またはワルファリン(28.6%)が処方されていた。この点に関しては、同氏らは「研究期間(2012~19年)が、CATに対するDOACの使用をガイドラインが推奨する以前の段階であったため」と補足している。

 その上で、同氏らは「CAT患者への抗凝固薬の選択に関しては、がん種によるVTEリスクの違いやVTEの病態、患者背景の違いなど、未解明の問題が残っている」と付言している。

(木本 治)