米・Harvard Medical SchoolのTomas G. Neilan氏らは、HMG-CoA還元酵素阻害薬アトルバスタチンがアントラサイクリン系抗がん薬の副作用である心毒性を軽減するかを検討する二重盲検ランダム化比較試験(RCT)STOP-CAを実施。その結果、アントラサイクリン系抗がん薬の治療開始前にアトルバスタチンを予防的に投与すると、左室駆出率(LVEF)の低下が抑制されたとJAMA2023; 330: 528-536)に報告した。

アントラサイクリン系薬剤投与後5年で最大20%が心不全を発症

 ドキソルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤には副作用として心毒性があり、投与後12カ月以内に悪性リンパ腫患者の20%以上でLVEFが10%以上低下し、5年後には最大20%が心不全を発症するという報告ある。一方で、アトルバスタチンがアントラサイクリン系薬剤による心機能障害を軽減させる可能性が複数報告されている。

 そこでNeilan氏らは、アトルバスタチンの予防的投与がアントラサイクリン系抗がん薬による心毒性を軽減するかをRCTで検討した。

 2017年1月25日〜21年9月10日に米国およびカナダの医療センター9施設で新たに悪性リンパ腫と診断され、アントラサイクリン系抗がん薬による化学療法を予定している18歳以上の患者300例(平均年齢50歳、女性47%)を登録。アトルバスタチン40mg/日またはプラセボを経口投与する群に1:1でランダムに割り付け、アントラサイクリン系抗がん薬の初回投与前から12カ月間継続投与した。2022年10月10日まで追跡した。除外基準は、治療前の血清ALTおよびASTの正常上限値の3倍を超える持続的かつ原因不明の上昇、心臓MRIの禁忌、スタチンによる治療中または治療適応とした。

 主要評価項目は、化学療法前からアトルバスタチン投与後12カ月までにLVEFの絶対値が10%以上低下し、最終値が55%未満となった患者の割合とした。副次評価項目は、化学療法前からアトルバスタチン投与後12カ月までにLVEFの絶対値が5%以上低下し、最終値が55%未満となった患者の割合とした。探索的評価項目は、アトルバスタチン投与後24カ月の心不全発症とした。

LVEF低下はアトルバスタチン群で9%、プラセボ群で22%

 286例(95%)が試験を完遂した。intention-to-treat解析の結果、平均LVEFはベースラインで63±4.6%、追跡時で58±5.9%だった。試験薬のアドヒアランスは91%と良好で、両群同等だった。

 主要評価項目を満たした患者の割合は、プラセボ群の22%(33/150例)に対し、アトルバスタチン群では9%(13/150例)と有意なLVEFの低下抑制が示された(オッズ比2.9、95%CI 1.4〜6.4、P=0.002)。

 同様に、副次評価項目を満たす患者の割合は、プラセボ群の29%に対しアトルバスタチン群では13%と、LVEF低下が有意に抑制されていた(P=0.001)。

 24カ月の追跡期間中に13例(4%)が心不全を発症。発症率はアトルバスタチン群で3%、プラセボ群で6%と有意差はなかった(P=0.26)。また、重篤な有害事象の報告は少なく、両群に有意差はなかった。

 同試験の限界としてNeilan氏らは、心不全の代替指標としてLVEFの変化を用いた点や、対象の人種の多様性が乏しい点などを挙げた。その上で、「今回の知見は、アントラサイクリン系抗がん薬治療を受ける悪性リンパ腫患者へのアトルバスタチンの予防投与を支持するものである」と結論している。

(今手麻衣)