腎機能障害は心不全の危険因子の1つだが、定期的な反復測定による腎機能マーカーの経年的な推移と心不全発症との関連は明確でない。大阪大学大学院公衆衛生学の坂庭嶺人氏とオランダ・University of Groningenなどの国際研究グループは、オランダのコホート研究PREVENDのデータを用いて腎機能マーカー(尿中アルブミンおよび血清クレアチニン)の縦断的かつ経年的な推移と心不全の新規発症との関連を検討。その結果、腎機能マーカーの推移には数種類のパターンがあり、いずれも経年的にほぼ一定に推移すること、心不全新規発症に関連することが示されたとEur J Heart Fail2023; 25: 1072-1079)に報告した。

約7,000人の追跡データを基にパターン化

 坂庭氏らは、一般集団における微量アルブミン尿の有病率および心血管疾患新規発症との関連を評価したPREVENDの参加者から、尿中アルブミンと血清クレアチニンのデータが得られた6,881人を抽出。尿中アルブミンおよび血清クレアチニンの経年的推移と、グループベースの軌跡分析を用いた心不全新規発症との関連性を検討した。

 中央値で11.5年の追跡期間に278人(4.1%)が心不全を発症し、281人(4.1%)が死亡した。同氏らが腎機能マーカーのベースライン値から経年的な変化パターンを分析したところ、尿中アルブミンは8群、血清クレアチニンは9群に分類できた。さらに、腎機能マーカーは多くの参加者で長期に安定して推移することも示された(図1)。

図1. 尿中アルブミン(左)と血清クレアチニン(右)の経年的推移

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 心不全発症リスクは、尿中アルブミンが経年的に低値で推移した群ほど低く、高値で推移した群ほど高かった。また、サンプル数が少なく有意差は検出できなかったものの、ベースラインの尿中アルブミンが同等の2群において、経時的に安定して推移した群(Class 6)と比べ、低下した群(Class 5)では心不全発症リスクが低かった。そのため、腎機能マーカーの継続的な改善により心不全発症リスクが低減することが示唆された(図2-上)。

図2. 腎機能マーカーの経年的推移別に見た心不全新規発症率

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(図1、2とも大阪大学プレスリリースより)

 なお、腎機能マーカーが経年的に高値パターンの群には高齢、男性、糖尿病、心筋梗塞の既往、脂質異常症などの併存疾患保有者が多かった。

 以上から、同氏らは「これまでの研究により、尿中アルブミンや血清クレアチニンの上昇と心不全の発症および死亡との間には強固な関連があることが示されているが、縦断的に経年的推移を調査した研究はほとんどなかった。PREVEND研究のデータを用いた先行研究では、単年の腎機能マーカーと心不全発症には有意な関連が認められなかったのに対し、今回の研究では腎機能マーカーの経年的な高値と心不全発症に明確な関連が認められた。また、サンプルサイズの問題により有意差は認められなかったものの、腎機能マーカーの継続的な改善は心不全発症リスクの低減効果があることが示唆された」と結論している。

編集部