名古屋大学病院の松下正氏らは、インヒビターを保有する先天性血友病AまたはB患者を対象に、組織因子経路インヒビター(TFPI)阻害薬concizumabによる予防治療の有用性を検討したExplore 7試験の最新解析結果をN Engl J Med(2023; 389: 783-794)に発表。「concizumab予防治療により推定年間出血回数(annualized bleeding rate;ABR)は86%減少した」と報告した。

皮下注による出血エピソードの予防に期待

 血友病に対してはこれまで第Ⅷ因子製剤や第Ⅸ因子製剤静注投与が治療の中心だったが、このような凝固因子補充療法は、半減期延長製剤を使っても反復的な静脈穿刺が必要であり、特に小児にとっては治療負担が大きい。

 こういった課題を解決するために開発されたのが、non-factor製剤(欠損する凝固因子そのものを補充するのではなく、凝固カスケードの他の因子を調節する薬剤)であり、皮下注投与が可能なことが利点である。それでも、特にインヒビターを有する血友病患者では破綻出血に対してバイパス製剤による治療が必要となる場合があり、これが治療の複雑化や難しさの一因となっている。

 現行の血友病治療ガイドラインでは、血友病性関節症の予防やQOL改善のため、全てのsevere bleeding phenotype(重症型)には予防治療が推奨されている(Haemophilia 2020 ;26 Suppl 6:1-158)。

 concizumabはあらゆる血友病サブタイプに対する予防治療薬として開発中のTFPI阻害薬であり、Explore 7試験の主要解析結果は、昨年(2022年)、国際血栓止血学会年次集会(ISTH 2022)で発表された。

concizumabの有無で出血回数を比較

 対象はインヒビターを有する血友病患者133例(血友病A 80例、血友病B 53例)。そのうち52例をグループ1〔予防治療なし群(on-demand治療は実施)、19例〕とグループ2(concizumab予防治療群、33例)にランダムに割り付けた。

 残りの81例は、explorer 4試験から移行してきた患者群(グループ3、21例)および、それまでバイパス製剤によるon-demand治療または予防治療を受けていた患者群(グループ4、60例)で、両グループに対してもconcizumab予防治療を行った。

 主要評価項目は予防治療なし群とconcizumab予防治療群)における自然出血エピソードおよび外傷性出血エピソードとした。

血栓塞栓症イベントの懸念は小さい?

 試験開始後concizumab予防治療を受けていた患者のうち3例に非致死性の血栓塞栓症イベントが発生したため、試験は一時停止され、その後、concizumabの用量を変更して再開された。

 試験(治療)期間は予防治療なし群が24週以上、concizumab予防治療群が32週以上で、両群の出血エピソードから求めた推定ABRは予防治療なし群の11.8回(95%CI 7.0~19.9回)に対し、concizumab予防治療群は1.7回(同1.0~2.9回)だった。両群のABR比は0.14(同0.07~0.29)となった(P<0.001)。

 concizumab予防治療を受けた3グループ(グループ2、3、4)全体のABR中央値は0回だった。

 一時停止のあとconcizumab予防治療を再開したが、新たな血栓塞栓症イベントの報告はなかった。また、concizumabの血中濃度は経時的に安定していた。

  以上の結果を踏まえ、松下氏らは「インヒビターを有する血友病AまたはB患者のABRを減らす上で、concizumab予防治療がon-demand治療より優れていることが確認された。concizumabを使用したグループ2、3、4において重篤な有害事象は少なかった」と結んでいる。

木本 治