これまで川崎病の発症原因について多くの研究が行われてきたが、特定には至っていない(関連記事「妊婦の葉酸摂取不足が乳児の川崎病に関連」「CVDの家族歴で川崎病のリスク上昇」)。関西医科大学小児科学講座の寺本芳樹氏らは、川崎病に罹患してから約1年間が経過した小児の腸内細菌叢を解析。その結果、アレルギー疾患や自己炎症性疾患と関わり炎症を引き起こすことで知られる Ruminococcus gnavus groupが健康児に比べ多く、炎症抑制作用を有するBlautiaが少ないことをFront Immunol10月31日オンライン版)に報告した。

遺伝子解析で腸内細菌叢の多様性、細菌構成を比較

 川崎病の発症リスクを高める因子として帝王切開での出生や、乳児期の人工乳栄養、抗菌薬使用歴が報告されている(Pediatr Int 2020; 62: 1044-1048Pediatrics 2016; 137: e20153919)。これらはいずれも乳幼児期の腸内細菌叢を攪乱する因子として知られているが、病態自体に原因があるのか、異常な免疫反応のために引き起こされているのかは定かでなかった。そこで寺本氏らは今回、川崎病罹患から約1年が経過し、急性期疾患の罹患や抗菌薬使用による一時的な腸内細菌の乱れが落ち着き、健康な状態にある小児の腸内細菌叢を解析した。

 対象は、約1年前に川崎病で治療を行った患者26例と、ほぼ同年齢の健康対照57例。便検体を採取して次世代シークエンサー16S rRNA遺伝子解析を行い、腸内細菌叢の多様性、細菌構成を比較した。

プロバイオティクス、プレバイオティクス用いた予防治療戦略の開発に可能性

 解析の結果、β多様性(菌種組成の類似性)の指標であるBray-Curtis非類似度で川崎病群と対照群に有意な違いが見られ、2群の腸内細菌叢が異なることが示唆された(図1)。

図1. 川崎病群と対照群の腸内細菌叢β多様性の比較

50187_fig01.jpg

 さらに細菌構成では、川崎病群において炎症を引き起こすRuminococcus gnavus groupが有意に多く(川崎病群1.9% vs. 対照群1.3%)、酪酸の産生によって腸管内で制御性T細胞の分化を助け、炎症抑制作用を持つBlautiaが有意に少ないことが示された(同 3.6% vs. 6.8%、図2

図2. 川崎病群と対照群の腸内細菌叢(属)の比較

50187_fig02.jpg

(図1、2とも関西医科大学プレスリリースより)

 今回の結果から寺本氏らは「Ruminococcus gnavus groupの増加とBlautiaの減少を特徴とする腸内細菌叢のバランス異常が、川崎病の発症に影響する因子である可能性が示された」と結論。「原因究明の一助となるとともに、プロバイオティクスやプレバイオティクスを用いた腸内細菌叢を標的とした、新たな川崎病の予防・治療戦略の開発につながる可能性がある」と付言している。

(平吉里奈)