起立性低血圧または立位低血圧を有する高血圧患者の血圧管理において、厳格治療と標準治療のどちらがよいかについては、現在も結論が得られていない。米・Beth Israel Deaconess Medical CenterのStephen P. Juraschek氏らは、ランダム化比較試験(RCT)における個人レベルデータに基づくメタ解析により、こうした病態が心血管疾患(CVD)と全死亡に与える影響を降圧治療の強度との関連で検討。結果をJAMA2023; 330: 1459-1471)に報告した。

降圧治療の強度によりリスクが変化するか検討

 Juraschek氏らは以前に同様のメタ解析を行い、降圧治療中の患者において厳格な降圧が起立性低血圧の発症リスクを低下させることを報告している(Ann Intern Med 2021; 174: 58-68)。今回は、ベースラインの起立性低血圧や立位低血圧の有無により、降圧治療の強度と心血管疾患(CVD)または全死亡との関連が異なるか否かを検討した。

 複数の医学データベースを検索して、2022年5月13日までに公開された文献から、高血圧患者に対する降圧薬治療のRCT(強化治療目標と標準目標、または実薬とプラセボの比較)で、起立性低血圧または立位低血圧を評価しているものを抽出し、システマチックレビューと個人レベルデータに基づくメタ解析を実施。Cox比例ハザードモデルにより効果を特定した。

 起立性低血圧は、座位から立位への動作後における収縮期血圧(SBP)の20mmHg以上の低下または拡張期血圧(DBP)の10mmHg以上の低下、あるいはその両方と定義。立位低血圧は、立位SBPが110mmHg以下または立位DBPが60mmHg以下と定義した。

起立性低血圧、立位低血圧とCVD、全死亡に有意な関連

 関連試験9件・2万9,235例(平均年齢69.0歳、女性48%)のデータをメタ解析に組み入れた。追跡期間の中央値は4年だった。ベースラインにおいて9%が起立性低血圧を、5%が立位低血圧を有していた。

 ベースライン時の起立性低血圧とCVDと全死亡の複合〔ハザード比(HR)1.14、95%CI 1.04~1.26〕、全死亡単独(同1.24、1.09~1.41)との間に有意な関連が認められた。

 同様に、ベースライン時の立位低血圧とCVDと全死亡の複合(HR 1.39、95%CI 1.24~1.57)、全死亡単独(同1.38、1.14~1.66)との関連も有意だった。

厳格な降圧治療によりリスク低下

 しかし、ベースライン時の起立性低血圧の有無にかかわらず、厳格な降圧治療は標準降圧治療と比較してCVDと全死亡の複合リスクを低下させた。非起立性低血圧例のHRは0.81(95%CI 0.76~0.86)、起立性低血圧例のHRは0.83(同0.70~1.00)で、厳格な降圧を行った場合、起立性低血圧の有無によるCVDと全死亡の複合リスクに差は認められなかった(相互作用のP=0.68)。

 立位低血圧に関しても、ベースライン時の立位低血圧の有無にかかわらず、厳格な降圧治療によりCVDと全死亡の複合リスクは低下した。非立位低血圧例のリスク低下は有意で(HR 0.80、95%CI 0.75~0.85)、立位低血圧例では有意でなかった(同0.94、0.75~1.18)が、両群の効果量に有意差はなかった(相互作用のP=0.16)。

 Juraschek氏らは「今回得られた結果のうち、起立性低血圧または立位低血圧を有する高血圧患者ではCVDまたは全死亡のリスクは上昇するという知見は既報と一致していたが、降圧治療によりこのリスクがさらに上昇することはなく、むしろ厳格な降圧治療を行うことで、こうした病態のない場合と同程度まで緩和される」と結論。これを踏まえ「高血圧患者における起立性低血圧や立位低血圧は、降圧治療を控える理由にはならず、降圧治療の開始前にこれらの病態のスクリーニングを推奨している現行のガイドラインはエビデンスを欠いている」と指摘している。

(小路浩史)