オーストラリア・University of New South WalesのBrendon L. Neuen氏らは、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の臨床試験データを元に、これら3剤を併用した場合の心血管/腎臓および死亡に対する相加効果をアクチュアリー(保険数理)の方法で解析。「3剤の併用によりアルブミン尿を伴う2型糖尿患者の臨床転帰はさらに改善することが推計された」とCirculation(2023年11月12日オンライン版)に発表した。

実臨床を想定した長期のベネフィットを推計

 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、MRAは、複数のランダム化比較試験(RTC)により2型糖尿病患者の心血管イベントリスク低下や慢性腎臓病(CKD)の進行抑制効果が証明されており、主要ガイドラインで推奨されている。これらの薬剤は作用機序が異なり、抑制が期待できるイベントにも違いがあることから併用療法のベネフィットに関心が集まっている。

 一方、これらの臨床試験の追跡期間は1.5~4年程度であるため、通常はより長期間にわたる糖尿病治療を通じたベネフィットは明らかでない。

 そこでNeuen氏らは、3剤併用によって糖尿病患者が生涯にわたって得られるベネフィットを検討。SGLT2阻害薬の臨床試験であるCANVAS試験とCREDENCE試験参加者の統合データ(1万4,543例)、MRAのFIDELIO-DKD試験とFIGARO-DKD試験参加者の統合データ(1万3,026例)、GLP-1受容体作動薬の試験8件のメタ解析データ(6万80例)を用い、2剤併用または3剤併用が、さまざまな転帰に及ぼす影響を解析した。患者は中程度のアルブミン尿(尿中アルブミン/クレアチニン比30mg/g以上)を呈する2型糖尿病患者。試験は全てプラセボ対照試験で、プラセボ群は通常治療(レニン・アンジオテンシン系阻害薬と従来のリスク管理)のみを受けていた。

MACEのリスクが35%低下

 解析の結果、通常治療に対するSGLT2阻害薬+ GLP-1受容体作動薬+MRA併用における主要心血管イベント(MACE)、心不全による入院、心血管死、CKD進行、全死亡の推計ハザード比(HR)はそれぞれ0.65(95%CI 0.55~0.76)、0.45(同0.34~0.58)、0.64(同0.51~0.80)、0.42(同0.31~0.56)、0.67(同0.55~0.80)と、いずれも各薬剤の単剤療法、またはいずれか2剤の併用よりもHRは低かった。

 3剤併用で3年間治療した場合のMACEの絶対リスク減少率(ARR)は4.4%(95%CI 3.0~5.7%)で、治療必要数(Number Needed to Treat;NNT)は23(同18~33)となった。

 また患者が50歳の場合、MACEの無イベント生存期間は通常治療の17.9年に対し、3剤併用では21.1年(差3.2年、95%CI 2.1~4.3年)と推計された。

 心不全による入院、CKD進行、心血管死、全死亡の無イベント生存期間についても、3剤併用によりそれぞれ3.2年(95%CI 2.4~4.0年)、5.5年(同4.0~6.7年)、2.2年(同1.2~3.0年)、2.4年(同1.4~3.4年)延長するとの推計結果が得られた。

 以上から、Neuen氏らは「中程度のアルブミン尿を呈する2型糖尿病患者においては、SGLT2阻害薬+GLP-1受容体作動薬+MRAの併用により、心血管イベントやCKD進行なしの生存期間延長をもたらす可能性が推定された」と結論している。

木本 治