日本人の骨粗鬆症性脆弱性骨折による実際の死亡者数は、人口動態統計として公表されている数値の約19倍に上る可能性が示された。千葉大学病院次世代医療構想センター特任講師/地域医療機能推進機構船橋中央病院(千葉県)整形外科医長の阿部幸喜氏らは、骨粗鬆症に関連する死亡者数を再評価する目的で疫学研究を実施。2018年の人口動態統計上の骨粗鬆症に関連する死亡者数は190例にすぎなかったが、死亡診断書(死体検案書)のデータを解析した結果、骨粗鬆症性脆弱性骨折の基準に合致する大腿骨近位部骨折または脊椎骨折による高齢者の死亡は3,437例に上り、両者を合わせた3,627例が実際の骨粗鬆症に関連する死亡者数と推定されるとJ Orthop Sci2023年11月18日オンライン版)に発表した。

高齢者と転倒の多さに反し、低い統計上の死亡率

 日本における骨粗鬆症患者数は1,280万例(総人口の約10%)、大腿骨近位部骨折の年間発生数は約19万3,400例と推定されている。また、こうした骨折の79.5%は、転倒またはベッドからの転落が原因の脆弱性骨折であるという研究報告がある(J Orthop Sci 2017; 22: 909-914)。したがって、骨粗鬆症に関連する死亡は極めて多いと推測される。

 しかし、2018年の英国、オーストラリア、米国、日本の人口動態統計に基づく骨粗鬆症に関連する死亡率は、それぞれ100万人当たり1.17人、0.74人、0.20人、0.15人で、日本が最も低い。4カ国の中で日本は人口に占める高齢者の割合(28.9%)および同一平面での転倒による死亡率(59.90%)が最も高いことを考えれば、日本において同一平面での転倒を死因として登録された死亡者には、かなりの数の脆弱性骨折の症例が含まれると考えられる。

 そこで阿部氏らは、2018年の人口動態統計および死亡診断書のデータを用い、実際の骨粗鬆症に関連する死亡者数を推定した。

単独の原死因に基づく死因統計が影響の可能性

 まず、2018年の人口動態統計データを解析した結果、骨粗鬆症に関連する死亡は190例にすぎなかった。大腿骨近位部骨折および脊椎骨折による死亡は、それぞれ2,827例、1,121例だった。

 次に、2018年に登録された約140万件の死亡診断書データを解析した結果、同一平面での転倒が原因の大腿骨近位部骨折および脊椎骨折による死亡は、全体で2,737例、939例(計3,676例)、80歳以上の高齢者で2,563例、874例(計3,437例)に上った。これらの骨折は、骨粗鬆症性脆弱性骨折の診断基準に合致すると考えられた。

 以上の解析結果を合算すると、実際の骨粗鬆症に関連する死亡者数は、公表されている人口動態統計値の約19倍となる3,627例と推定された。

 実際の死亡者数が公表統計値より大幅に多くなった原因の1つとして、阿部氏らは「現行の死因統計では、死亡診断書に記載された諸死因のうち1つを原死因として選択することになっている」と指摘した上で、「しかし、単独の死因では不十分で複数の死因の解析が必要な場合もあり、特に脆弱性骨折を伴う骨粗鬆症に関連する死亡はこれに該当する」と説明している。

太田敦子