大腿骨近位部骨折〔だいたいこつきんいぶこっせつ〕 家庭の医学

 若年者で高所からの転落や交通事故などの際に強い外力が加わって起こるものと、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の傾向のある高齢者で転倒など比較的弱い外力によって生じるものがありますが、後者のほうが圧倒的に多く、社会の高齢化により現在では全国で毎年15万人以上の人がこの骨折を受傷していると推定されています。
 大腿骨近位部の骨折は、骨折の部位により大きく2つに分けられ、治療法も異なりますが、どちらの部位の骨折でも基本的に手術が必要です。骨折が大腿骨頭(だいたいこつとう)の球状の部分のすぐ下で生じるものは、大腿骨頸部内側骨折と呼ばれます。このタイプの骨折では、ずれの程度によって骨折部を固定する手術か、大腿骨頭を取り除いて代わりに金属でできた人工の骨頭を入れる手術がおこなわれます。
 もう一つのタイプは、骨折が大腿骨頸部の直下ではなく少し下の部分で起こるもので、大腿骨頸部外側骨折と呼ばれます。このタイプの骨折では通常骨折部を金具で固定する手術がおこなわれます。
 以前、よい手術法がなかった時代にはこの骨折により寝たきりになり、ついには亡くなる人が多かったことが知られています。このため現在ではこの骨折が起こった場合、高齢者であってもなるべく早く手術をし、リハビリを開始するというのが治療の原則になっています。
 高齢者で転んだあと、股(こ)関節部に痛みが生じて歩けなくなった場合には、この骨折が疑われますので、できるだけ早く専門医を受診するようにしてください。

(執筆・監修:東京大学大学院総合文化研究科 教授〔広域科学専攻生命環境科学系〕 福井 尚志)
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