京都府立医科大学大学院内分泌・代謝内科学の西條優斗氏らは、同大学で進行中のKAMOGAWA-Aコホート研究の参加者700例超のデータを後ろ向きに解析し、日本人の糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の投与中止の理由を検討。その結果、SGLT2阻害薬の投与開始後2年以内に約8分の1が投与を中止しており、理由として最も多かったのは頻尿だったとJ Clin Med2023; 12: 6993)に発表した。

頻尿19.6%、性器感染症11.3%、血糖コントロール改善10.6%など

 SGLT2阻害薬は心・腎保護作用、血糖低下作用を有する糖尿病治療薬だが、性器感染症や体液減少、低血糖糖尿病ケトアシドーシスなどの副作用が知られており、これらが原因で投与中止に至ることもある。

 西條氏らは今回、京都府立医科大学病院内分泌・糖尿病・代謝内科で治療を受けている内分泌・代謝疾患患者の実態を把握する目的で実施しているKAMOGAWA-Aコホート研究の参加者のうち、2014年1月~21年9月にSGLT2阻害薬(ダパグリフロジン、カナグリフロジン、ルセオグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン)の投与を開始した糖尿病患者766例を抽出し、投与開始後2年にわたり後ろ向きに追跡した。対象は男性が57.6%を占め、いずれも中央値で年齢は64歳、糖尿病罹病期間は11年、BMIは25.3、HbA1cは7.9%だった。

 解析の結果、全体で97例(12.7%)が追跡期間中にSGLT2阻害薬の投与を中止していた。内訳は投与開始後3カ月未満が22例(22.7%)、3カ月以上12カ月未満が43例(44.3%)、12カ月以上24カ月未満が32例(33.0%)だった。

 最も多かった投与中止の理由は頻尿(19.6%)で、次いで性器感染症(11.3%)、血糖コントロールの改善(10.6%)、腎機能障害(8.2%)、尿路感染症(7.2%)の順だった。糖尿病ケトアシドーシスによる中止は3例(3.1%)で、いずれも正常血糖ケトアシドーシスではなく、うち2例が1型糖尿病患者だった。

 2型糖尿病患者713例に限定した解析でも同様の結果だった。

中止例は継続例と比べ高齢、罹病期間などは差なし

 さらに、SGLT2阻害薬の治療効果を表していると考えられる血糖コントロール改善による投与中止の10例を除外し、投与継続群669例と中止群87例で比較した。その結果、糖尿病罹病期間、1型と2型の割合、血糖コントロール、腎機能、インスリン使用の有無、主な糖尿病合併症(神経障害、網膜症、腎症、心血管疾患)に両群で有意差はなかった。一方、継続群と比べて中止群の年齢中央値が有意に高く〔64歳(四分位範囲53~71歳) vs. 68歳(同55~75歳)、P=0.003〕、高齢の糖尿病患者ほどSGLT2阻害薬の投与中止に至る傾向が強いことが示唆された。

 この結果について、西條氏らは「過活動膀胱や男性の前立腺肥大症は加齢とともに増加することが知られており、いずれも頻尿などの下部尿路症状を引き起こす可能性がある。また、高齢者の夜間頻尿は転倒リスクの上昇にもつながる。そのため、SGLT2阻害薬の投与を開始する際には頻尿の予防策を講じることが極めて重要であり、塩分制限、適切な飲水指導、生物学的半減期が短いSGLT2阻害薬の選択が有用な可能性がある」と結論している。

(太田敦子)