国立循環器病研究センター脳神経内科の齊藤聡氏、同部長の猪原匡史氏らは、軽度認知障害(MCI)患者を対象に抗血小板薬シロスタゾールの有効性および安全性を検討する医師主導の第Ⅱ相多施設共同プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)COMCIDを実施。MCIから認知症への進行予防効果は示されなかったものの、アミロイドβ(Aβ)とアルブミンの複合体の血中濃度が上昇しており、シロスタゾールが脳内Aβの排出を促す可能性が示唆されたとJAMA Netw Open(2023; 6: e2344938)に発表した。

MMSEスコアの変化量を検討

 これまでに猪原氏らは、動物実験によりシロスタゾールが血管に直接作用し、脳内に蓄積したAβを脳外に排出することを報告している(Ann Clin Transl Neurol 2014; 1(8): 519-533)。しかし、ヒトにおける安全性やMCIから認知症への進行予防に有効かどうかは明らかでなかった。

 そこで、国立循環器病研究センターが中心となり14の医療機関が参加する医師主導のRCTとしてCOMCIDを実施。2015年5月~18年3月にMini-Mental State Examination(MMSE)スコアが22~28点、臨床的認知症評価尺度(CDR)が0.5点の成人MCI患者166例を登録し、シロスタゾール50mgを1日2回投与するシロスタゾール群(82例)とプラセボ錠を1日2回投与するプラセボ群(84例)に1:1でランダムに割り付け、最長96週間投与した。

 主要評価項目はMMSEスコアのベースラインからの変化量、副次評価項目はMCIから全ての認知症に移行するまでの期間、CDRスコアの合計点(CDR-SB)、一型認知症アルツハイマー病(AD)評価尺度である認知機能サブスケールなどとし、探索的エンドポイントとしてAβ-アルブミン複合体の血中濃度を評価した。副次評価項目に認知症への移行が含まれるため、対象が認知症と診断された時点で介入を中止した。安全性の評価項目は全ての有害事象とした。

 解析対象は159例(平均年齢75.6±5.2歳、男性66例)。ベースラインの平均MMSEスコアは25.5±1.9点で、平均CDRは2.6±1.0点だった。

Aβ-アルブミン複合体の血中濃度はシロスタゾール群で大きく上昇

 検討の結果、主要評価項目としたMMSEスコアのベースラインからの変化量(最小二乗平均値±標準誤差)はシロスタゾール群が24週時で-0.6±0.3点、48週時で-1.0±0.3点、72週時で-1.1±0.4点、96週時で-1.8±0.4点、プラセボ群がそれぞれ-0.1±0.3点、-0.8±0.3点、-1.2±0.4点、-1.3±0.4点と、両群で有意差は認められなかった。

 全ての認知症への進行は、シロスタゾール群で20例、プラセボ群で20例発生し、ハザード比(HR)は1.12(95%CI 0.60~2.09、P=0.71)、ADへの進行は、それぞれ20例と19例に発生し、HRは1.18(同0.63~2.22、P=0.60)で、いずれも有意差はなかった。

 安全性については、有害事象がシロスタゾール群で58例(74.4%)、プラセボ群で58例(71.6%)に認められた(P=0.72)。有害事象による中止は、それぞれ3例(3.8%)、2例(2.5%)に発生した。プラセボ群で1例が肺がんにより死亡した。心血管系疾患に分類される軽度の有害事象がシロスタゾール群で6例、プラセボ群で2例に認められた。ベースラインから4週間後まで臨床検査値に有意な変化は見られなかった。

 24週時におけるAβ-アルブミン複合体の血中濃度のベースラインからの平均変化量は、シロスタゾール群(67例)が3.95±1.10mg/mL、プラセボ群(76例)が1.22±0.89mg/mLの上昇であった。ベースラインと24週時における同複合体の血中濃度の関連性を検討すると、シロスタゾール群でのみ有意な負の相関が認められた(Pearsonの相関係数-0.34、P=0.005)。

 以上の結果を踏まえ、齊藤氏らは「シロスタゾール投与による認知機能低下の予防は示されなかったが、忍容性は良好だった。シロスタゾールは脳内Aβの血液中への排出を促進する可能性が示唆された」と結論。「今後は、シロスタゾールへの反応性が高い集団を同定し、抗認知症効果を探求していく予定である」と展望している。

栗原裕美