日本人では、大腸がんは臓器別で男女ともに2番目に多い(2019年、国立がん研究センター がん統計)。食生活との関連が多く報告されてきた一方で、糖質との関連を検討した報告は乏しかった。国立がん研究センターがん対策研究所の金原里恵子氏は、日本人を対象に単純糖質摂取量と大腸がん罹患リスクとの関連を検討した結果を第82回日本癌学会(9月21~23日)で発表。「単純糖質摂取量と大腸がんに関連は見られなかったものの、大腸の部位別に解析すると、女性でのみ単純糖質の摂取量が多いほど直腸がんのリスクは有意な上昇傾向を示した」と報告した。なお、研究の概要は国立がん研究センターがん対策研究所サイト、詳細は(Cancer Sci 2023; 114: 2584-2595)に掲載されている。
男性4万2,405人、女性4万8,600人が対象
大腸がんは、世界的に見てがん罹患率の3位、がん関連死亡の2位に位置し(2020年)、肉類やアルコールの摂取との関連が報告されている。他方で、大腸がんと糖質摂取との関連についての報告は少なく、特にアジア人を対象とした既報は症例対照研究に限られており、エビデンスが不足していた。
そこで金原氏らは今回、糖質のうち単純糖質に着目。多目的コホート研究JPHC studyのデータベースを活用し、日本人における単純糖質の摂取と大腸がんとの関連を検討した。JPHC studyは40〜69歳の住民を対象とした大規模コホート研究で、今回の解析では1995年および1998年に全国10地域の保健所管内に在住していた45~74歳の男性4万2,405例、女性4万8,600例の計9万1,005例を対象とし、開始時点から2013年12月までに発生した新規の大腸がん発生を評価した。
糖質については、調査開始時の食事摂取頻度調査票(FFQ)の回答を基に6種類の単純糖質(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、ショ糖、麦芽糖、乳糖)の摂取量と、それらの合計である合計単純糖質、合計果糖(ショ糖の2分の1と果糖を足したもの)の摂取量を推定して五分位に分け、最も摂取量が少ない第1五分位群を対照群とした。
Cox比例ハザードモデルを用いて、年齢、地域、BMI、飲酒、喫煙、身体活動、糖尿病、大腸がん家族歴、大腸がん検診受診の有無、閉経状況(女性のみ)、女性ホルモン療法歴(女性のみ)、総エネルギー摂取量、飽和脂肪酸、n-3系多価不飽和脂肪酸、マグネシウム、カルシウム、ビタミンD、ビタミンB6、ビタミンB12、食物繊維、葉酸摂取量を統計学的に調整し、男女別に大腸がん罹患のハザード比(HR)を算出した。
患者背景を見ると、いずれの群においても男性と比べ女性で合計糖質摂取量が多かった(5.6~16.8%E vs. 7.8~19.1%E)。糖質摂取量が多い群では、飲酒者と喫煙者が少ない傾向が見られた(全てP<0.001)。
男女差は単純糖質の摂取源が原因か
解析の結果、男女ともに各単純糖質、合計単純糖質、合計果糖の摂取量と大腸がん罹患との有意な関連は認められなかった。一方で、大腸がんの部位別に解析すると、女性の直腸がんと合計単純糖質摂取量に関連が見られ(第3五分位群:調整後HR 1.57、95%CI 1.00~2.47、第5五分位群:同1.75、1.07~2.87)、摂取量が多い群ほど罹患リスクは有意な上昇傾向を示した(傾向性のP=0.03、図)。
図. 女性における糖質摂取と直腸がん罹患リスクの関連
(国立がん研究センターがん対策研究所「糖質摂取量と大腸がん罹患リスクとの関連について)
今回の結果から、金原氏は「単純糖質の摂取量と大腸がん罹患に明確な関連は示されなかった点は、欧米の先行研究とも結果が一致していた。一方で、日本人中高年女性の直腸がんに関しては合計単純糖質摂取量とリスク上昇との関連が見られた」と結論した。
性差が見られた理由について、同氏は「女性は男性より糖質を多く取っていたこと、摂取源は菓子類が多かったことが影響した可能性がある」と指摘。部位で違いが見られた理由について「日本人の場合、単純糖質の主な摂取源の1つに果物がある。果物の予防的な働きが結腸と直腸で異なる可能性がある」と考察した。その上で今回の検討の限界として、追跡期間中の食事変化の影響を排除し切れていないこと、単純糖質の摂取量を推定する際に計算対象となった食品が限られていたことを挙げ、さらなる研究の蓄積が必要であるとした。
(平吉里奈)