京都大学大学院眼科学教室講師の宮田学氏らは、厚生労働省の匿名医療保険等関連データベース(NDB)を用いて日本人における斜視の発生状況を解析した結果、斜視の2020年時点の有病率は2.154%、2019年の年間発生率は10万人・年当たり321例だったとAm J Ophthalmol2023年11月29日オンライン版)に発表した。

学齢期と75歳以上で高い有病率、外斜視が67.3%

 宮田氏らは、日本における医療保険請求情報の95%以上が登録されているNDBのデータを解析し、2009年4月1日~20年9月30日に斜視と診断された患者を特定した。2020年10月1日時点で、日本の人口1億2,570万8,000中270万9,207人が斜視と診断され、斜視の有病率は2.154%(95%CI 2.152~2.157%)と算出された。

 有病率の年齢分布は二峰性で、学齢期(5~9歳で6.019%、10~14歳で7.652%、15~19歳で5.664%)および高齢(75~79歳で2.611%、80~84歳で2.762%、85~89歳で2.495%)での有病率が高かった。

 また若年層では女性、高齢層では男性の有病率が高い傾向が見られた。この結果について、同氏らは「若年男性患者に比べ、若年女性患者は心理社会的な不利益を被ることが多いという理由から、眼科の受診率および斜視施術の施行率が高くなっている可能性がある」と述べている。

 タイプ別の割合では、外斜視が67.3%と最も多く、次いで内斜視が26.0%、上下回旋斜視が6.7%だった。上下回旋斜視は18歳以下では1.4%とまれで、18歳超で10.2%に増加した。外斜視および内斜視の割合には両年齢層で差はなかった。

発生率は9歳以下の小児期で高い

 2019年に新規に斜視と診断された患者は40万3,093人で、1年発生率は10万人・年当たり321例(95%CI 320~322例)と算出された。

 年齢層別に見ると、10万人・年当たりの発生率が最も高かったのは9歳以下の小児期(0~4歳で1,165例、5~9歳で1,457例)で、有病率と同様に二峰性の分布を示し高齢層でも発生率が上昇した(75~79歳で392例、80~84歳で334例)。また、新規診断例全体に占める上下回旋斜視の割合は、18歳以下(1.4%)と比べて18歳超(13.1%)で多かった。

 以上の結果から、宮田氏らは「斜視の有病率および発生率は二峰性の年齢分布を示し、学齢期から中年期にかけての有病率は斜視手術により低下している可能性が示唆された。上下回旋斜視の有病率が小児より成人で高いという結果は、このタイプが主に加齢に伴う斜視であることを示唆している」と結論している。

 さらに、白人では内斜視が多く、アフリカ系米国人では外斜視内斜視の割合が同等という報告があることを指摘し、「日本人では外斜視が最も多かったという結果から、斜視には人種/民族間の遺伝的な違いが存在している可能性が示された」と付言している。

太田敦子