白癬(水虫)は身近な感染症の1つで、日本における有病率は足白癬が21.6%、爪白癬が10.0%に上ると推計されている。痒みや発赤、爪の変形および変色などを引き起こすだけでなく、喘息の増悪への関与も指摘されており、患者のQOLを著しく低下させる。近年、ステロール合成経路を標的とする既存の抗真菌薬に対する薬剤耐性菌の存在が多数報告されており、新たな治療法の開発が求められている。武蔵野大学薬学部薬学科の石井雅樹氏らは、白癬菌のTrCla4蛋白質が菌の細胞を形づくるアクチンの動体を制御していることを発見。さらに、TrCla4阻害薬が白癬菌の菌糸成長を抑制することや、感染実験においてモデル動物の生存期間を延長することを確認し、Microbiol Spectr2023; 11: e0292323)に発表した。

IPA-3が白癬菌の胞子の発芽と菌糸の成長を抑制

 石井氏らは、白癬の病原体として最も高頻度に検出されるTrichophyton rubrum(紅色白癬菌、以下、白癬菌)に注目。抗アクチン免疫染色により白癬菌の細胞内に局在するアクチンを可視化したところ、アクチンが菌糸の先端に蓄積されること、アクチン重合阻害薬であるサイトカラシンA(Cyto A)による処理で蓄積が妨げられることを確認。さらに、Cyto Aは白癬菌の増殖を抑制することを見いだした。

 同氏らは、白癬菌の菌糸成長におけるアクチン重合の重要性を示唆するこれらの知見に基づき、アクチン重合促進経路として知られるPhoファミリーの低分子量GTPaseであるRac/CDC42とその下流にあるP21活性化キナーゼ(PAK)に焦点を当てて研究を行った。その結果、Rac/CDC42-PAK相互作用阻害薬であるIPA-3が白癬菌の胞子の発芽と菌糸の成長を抑制することを確認した。

Trcla4は白癬菌アクチンの高次構造構築および菌糸成長に必須の分子

 次に石井氏らは、アグロバクテリウム法という遺伝子組み換え技術を用いて、PAKの1つであるTrcla4を欠損させた変異株を作製。白癬菌の菌糸成長にTrcla4が果たす役割を調べるために野生株、Trcla4欠損株をサブローデキストロース寒天培地プレート上で培養した。その結果、野生株と比べTrcla4欠損株では菌糸の成長が明らかに抑制された(図1)。さらに抗アクチン抗体染色およびDAPI染色による実験では、野生株はアクチンが菌糸の先端に局在するのに対し、Trcla4欠損株は菌糸先端へのアクチン局在性の低下が見られた(図2)。

 同氏らは、白癬菌のTrCla4蛋白質が持つキナーゼ活性を阻害する化合物を探索し、FRAX486とIPA-3を同定。白癬菌のカイコ感染モデルを用いて治療効果を評価したところ、FRAX486、IPA-3投与によりカイコの生存期間が延長した(図3)。

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(武蔵野大学・明治薬科大学・帝京大学共同プレスリリースより)

 以上から、同氏らは「TrCla4蛋白質は白癬の新たな治療標的候補となりうる」と結論。今後の研究で、真菌におけるPAK活性の簡便な検出手段の開発と、真菌特異的に機能するIPA-3およびFRAX486の誘導体を探索する必要があるとしている。

(編集部)