イスラエル・Sheba Medical CenterのRachel Dankner氏らは、同国最大の健康維持組織(HMO)、Clalit Healthcare Servicesの電子医療データベースを用いて、2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬の使用と膵がんリスクとの関連を検討。「成人2型糖尿病患者を対象とした今回のヒストリカルコホート研究では、GLP-1受容体作動薬の7年間の使用と膵がん罹患率上昇との関連は認められなかった」とJAMA Netw Open(2024; 7: e2350408)に報告した。

2009年以降の糖尿病患者54万例のデータを追跡

 GLP-1受容体作動薬の使用と膵炎や膵がんリスク上昇との関連を示唆する複数の報告が発表されて以来、同薬の使用にまつわる懸念が高まる一方、関連を否定する報告も多数発表されている(Diabetes Obes Metab 2017;19: 906-908、関連記事「減量目的のGLP-1作動薬で膵炎リスク9倍」)。

 Dankner氏らは、イスラエルで初めてGLP-1受容体作動薬が承認された2009年以降の成人(21~89歳)2型糖尿病患者のデータを膵がん診断、死亡、90歳到達、あるいは2017年12月まで追跡。糖尿病の診断後2年を時間起源とする離散時間Coxモデルで、GLP-1受容体作動薬と基礎インスリンへの加重累積曝露別に膵がん罹患率を比較した。

 対象とした糖尿病患者は54万3,595例(平均年齢59.9±12.8歳、女性51%)で、累積追跡期間は329万439人・年。GLP-1受容体作動薬を使用したのが3万3,377例(6.1%)で、基礎インスリン使用例は10万6,849例(19.7%)、膵がんと診断されたのは1,665例だった。

reverse causationバイアスの可能性

 膵がん診断の前年におけるGLP-1受容体作動薬1日用量 (1DDD) の基礎インスリン1 DDDに対する膵がんリスクのハザード比(HR)を、糖尿病罹病期間、年齢、性、社会経済的状況、民族、喫煙、ベースラインのBMI、他の血糖降下薬の使用を調整したフルモデルで検討したところ、HRは0.22(95%CI 0.11~0.41)となった。次に比較対象の期間を膵がん診断の2年前~4年前にしたところ、HRは1.54(同0.51~4.69)、5年前~7年前の比較ではHRは1.06(同0.26~4.33)だった。

 この結果は、基礎インスリン使用におけるreverse causation(因果の逆転)を強く示唆するものであることから、膵がん診断の前年における使用薬剤を除いたモデルで2年前~4年前、5年前~7年前におけるGLP-1受容体作動薬の基礎インスリンに対するHRを求めたところ、それぞれ0.32(95%CI 0.13~0.76)、1.43(0.35~5.79)となった。

 さらに、膵がん診断の前年および2年前~4年前までの使用薬剤を除いたモデルでは、5年前~7年前のGLP-1受容体作動薬の 基礎インスリンに対するHRは0.50(95%CI 0.15~1.71)であった。

膵がんリスク上昇は示唆されなかったが引き続き監視は必要

 以上の解析結果は、全てのCIが1未満または1をまたぐものであったことからDankner氏らは「GLP-1受容体作動薬の使用と膵がんリスク上昇との関連は支持されない」と結論。

 傾向スコアマッチングを用いたnew-user designとprevalent new-user designによる感度分析でも、GLP-1受容体作動薬使用と膵がんリスク上昇との有意な関連は示されなかった。

 最後に同氏らは「50万例以上の2型成人糖尿病患者のヒストリカルコホートデータを用いた解析の結果、GLP-1受容体作動薬により膵がんリスクが上昇するとの有力な証拠は得られなかった。しかし、今回の研究は7年までの解析であり、GLP-1受容体作動薬使用例における膵がんリスクのモニタリングは今後も必要である」と付言している。

木本 治