韓国・Kangwon National University HospitalのJi Hyun Kim氏らは、同国の国民健康保険サービス・全国サンプルコホート(NHIS-NSC)のデータを用い、胃酸抑制薬として広く用いられているプロトンポンプ阻害薬(PPI)およびH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)と酒皶との関連を後ろ向きに検討。その結果、これらの胃酸抑制薬の使用期間が長くなるほど酒皶の発症と強く関連したとJ Korean Med Sci(2023; 38: e402)に発表した。
1日規定量120日超の使用で酒皶のオッズ比1.55
胃酸抑制薬を長期間使用すると、腸内pHの変化により腸内細菌叢が乱れる恐れがある。腸内細菌叢の乱れは小腸内細菌異常増殖症やClostridioides difficile感染症などの消化管疾患に関連することが知られており、最近の研究では炎症性皮膚疾患との関連も報告されている。
Kim氏らは今回、NHIS-NSCの2001~13年のデータを用い、韓国人集団における胃酸抑制薬の使用と炎症性皮膚疾患である酒皶との関連を検討した。対象は、2003年以降に胃酸抑制薬(PPIまたはH2ブロッカー)を90日超にわたり処方された20歳以上の上部消化管疾患の患者。胃酸抑制薬の使用開始から1年超経過後に酒皶と診断された症例1例に対し、年齢、性、収入をマッチングした酒皶を発症していない対照4例を選出し、計3,460例(症例群692例、対照群2,768例)を解析に組み入れた。
ロジスティック回帰分析の結果、胃酸抑制薬の1日規定量(DDD)の使用が30日未満の場合と比べ、30日以上120日以下で酒皶との関連が見られ〔オッズ比(OR)1.43、95%CI 1.19~1.72〕、120日超ではさらに強い関連が見られた(同1.68、1.32~2.13)。交絡因子の調整後も結果は同様で、30日以上120日以下(調整後OR 1.41、95%CI 1.17~1.71)および120日超(同1.55、1.20~2.00)の長期使用は酒皶と関連していた(全てP<0.001)。
農村部居住、併存疾患も有意な危険因子に
その他の因子では、農村部居住(調整後OR 2.70、95%CI 2.26~3.22、P<0.001)、併存疾患のCharlson Comorbidity Index(CCI)スコア2以上(同1.57、1.21~2.04、P=0.001)が酒皶と有意に関連していた。前者については、農村部居住者は都市部居住者と比べ、酒皶の発症・悪化に関与するとされる日光曝露の頻度が高いことが原因であると考えられた。
以上の結果から、Kim氏らは「消化管疾患を有する韓国人集団において、H2ブロッカーおよびPPIの使用は酒皶の発症に関連し、発症リスクは用量依存性に上昇することが示された。臨床医は胃酸抑制薬の長期使用に伴う酒皶のリスクに注意すべきである」と結論している。
また、胃酸抑制薬の使用期間を1年未満に限定した解析でも同様の結果が認められたことから、同氏らは「胃酸抑制薬による腸内細菌叢の乱れは短期間のうちに引き起こされ、長期にわたり持続する可能性が示唆された」と付言している。
(太田敦子)