抗コリン作用がある抗うつ薬の使用は認知症リスクの上昇と関連するとされるが、いまだ議論の余地がある。スぺイン・Universidad Complutense de MadridのJavier Santandreu氏らは、同国の高齢者を対象にした人口ベースのコホート研究で三環系抗うつ薬(TCA)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、その他の抗うつ薬(OA)の認知症リスクを比較検討し、結果をJ Affect Disord2024; 349: 54-61)に発表した。

抗うつ薬を処方された高齢者6万人超を追跡

 スペインは2050年に世界で最も高齢化率が高い国の1つとなり、約100万人が認知症を発症すると推定されている。他方、同国の60歳以上におけるうつ病の有病率は5.7%とされ、抗うつ薬の使用は2000年~13年で2倍に増加している。そのため、認知症リスクが高い抗うつ薬を特定し、高齢者の適切なうつ病治療につなげることが重要となる。

 Santandreu氏らは今回、スペインのプライマリケア薬剤疫学研究データベースから、2005年~18年に非認知症で抗うつ薬単剤療法の初回治療を90日以上受けている60歳以上の患者6万2,928例を抽出。抗うつ薬の投与開始日から認知症の発症または追跡中止まで1年以上追跡し、抗うつ薬の認知症リスクを検討した。対象の平均年齢は64.82歳±8.835歳、女性は63.4%だった。Cox回帰モデルによりTCA群を対照群として、認知症発症のハザード比(HR)と95%CIを求めた。

SSRI、その他の抗うつ薬の認知症リスクはTCAの2倍

 抗うつ薬の内訳は、SSRI群が3万6,645例、OA群が1万9,321例、TCA群が6,962例で、認知症発症率はそれぞれ7.1%、6.0%、3.6%だった。

 TCA群に対する認知症リスクの未調整HRは、SSRI群で1.864(95%CI 1.624〜2.140)、OA群で2.103(同1.818〜2.431、全てP<0.001)だった。さらに、性、喫煙習慣、肥満、併存疾患など全ての共変量調整後のHRもTCA群に対し、SSRI群で1.792(同1.557〜2.061)、OA群で1.958(同1.687〜2.271、全てP<0.001)と、有意な認知症発症リスクの上昇が持続した。

適切な治療戦略を確立するにはさらなる研究が必要

 Santandreu氏らは、当初「TCAなどの抗コリン作用を有する抗うつ薬の認知症リスクがより高い」という仮説を立てたものの、今回の検討により「TCAと比べSSRIおよび他の抗うつ薬を使用している高齢者において、認知症リスクが高いことが示された」と結論。

 ただし、抗うつ薬の処方の変動や一部の抗うつ薬での症例数の少なさ、用量など情報の欠如、他の適応症での抗うつ薬の処方、治療コンプライアンスなどの制限があることから、同氏らは「この結果は高齢者に決定的なものではなく、適切な治療戦略を確立するにはさらなる研究が必要である」と付言している。

(宇佐美陽子)