米・University of PennsylvaniaのPeter J. Snyder氏らは、骨構造・骨質改善効果が報告されているテストステロン補充療法の骨折予防効果を明らかにするため、同療法の心血管への安全性を検討した第Ⅳ相多施設共同二重盲検プラセボ対照非劣性ランダム化比較試験TRAVERSEのサブスタディFracture Trialを実施し、結果をN Engl J Med(2024; 390: 203-211)に発表。「予想に反し、テストステロン補充療法は性腺機能低下症の中高年男性における臨床骨折発生率を低下させなかった」と報告した。
骨折報告者の記録を検証し骨折を確定診断
TRAVERSE試験の試験デザインや主要評価項目の結果は既に報告されている(Am Heart J 2022; 245: 41-50、関連記事:「テストステロン補充で心血管リスク上昇せず」)。
Fracture TrialはTRAVERSE試験開始時に計画されていたサブスタディで、臨床骨折発生率に及ぼすテストステロン補充療法の影響を検討したもの。
心血管疾患の既往または高リスクの性腺機能低下症(有症状かつ空腹時テストステロン濃度300ng/dL未満が2回)の男性患者(45~80歳)をテストステロン群(1.62%の経皮テストステロンゲルを連日投与)とプラセボ群に1:1でランダムに割り付けた。
参加者には対面または電話による診察時に毎回骨折の有無を尋ね、「骨折した」と答えた人にはけがや骨折箇所の詳細を尋ね、X線画像所見などのデータ入手の許可を求めた。さらに、割り付け群を知らされていないサンフランシスコ・コーディネイション・センターの審査員が骨折の記録を検討し、骨折の確定診断を下した。
臨床骨折発生率はテストステロン群で1.4倍
追跡期間(中央値3.19年、四分位範囲1.96~3.53年)中に、224例から309回の骨折報告があり(テストステロン群186回、プラセボ群123回)、テストステロン群の154回(82.8%)、プラセボ群の97回(78.9%)が骨折と確認された。
最終的に、テストステロン群2,601例のうち91例(3.50%)、プラセボ群2,603例のうち64例(2.46%)に1回以上の臨床骨折(胸骨、指、足指、顔、頭蓋骨折は除く)が発生し〔ハザード比(HR)1.43、95%CI 1.04~1.97〕、事前に設定した感度分析の結果も主解析と一致した。
3年時点の臨床骨折の累積発生率はテストステロン群3.8%(95%CI 3.0~4.6%)、プラセボ群2.8%(同2.1~3.5%)で、追跡期間のどの時点においても比例ハザード性の逸脱は観察されなかった。
ベネフィットとリスクを勘案した治療選択が必要
以上の結果について、Snyder氏らは「過去のほとんどの試験では、テストステロンによる骨構造や骨質の改善が報告されており、今回の結果は予想外だった」と考察。
「テストステロンは多くの骨構造指標、特に海綿骨構造指標を改善すると報告されているが、今回の試験は、テストステロンによる骨折増加を想定した試験デザインではなかったので、骨折増加のメカニズムについては推測(speculate)しかできない」と述べた上で、重症の性腺機能低下症男性においては、テストステロン治療により皮質骨体積比や皮質骨厚が低下するとした報告(J Clin Endocrinol Metab 2014; 99: 1236-1244)があることを紹介。
TRAVERSE試験でも、テストステロン群の心血管リスクは上昇しなかったが心房細動や急性腎障害、肺塞栓症の発生率は高かったことから「性腺機能低下症の中高年男性に対するテストステロン治療は、ベネフィット(性機能や気分の改善、ヘモグロビン値の上昇など)とリスクを判断して行うべきだろう」と付言している。
(木本 治)