抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体薬が慢性片頭痛の予防と治療に有効なことは臨床試験で示されているが、追跡期間が短く、試験から除外される患者も多いため、長期有効性の見極めや結果の一般化は難しい。オーストラリア・Alfred HealthのJason C. Ray氏らは、実臨床でCGRP抗体薬を投与された105例における12カ月の有効性を検討。3カ月時の奏効例の多くで治療継続により持続的奏効が得られた一方で、早期中止例も多く、効果判定時期を現行の3カ月より遅らせなければ長期有効性の正確な把握は困難であることが示唆された。詳細は、BMJ Neurol Open2024; 6: e000547)に掲載されている。

試験から除外されがちな患者を実臨床で追跡

 対象は、メルボルンの三次医療機関2施設で国際頭痛分類第3版(ICHD-3)に基づき慢性片頭痛と診断され、抗CGRP抗体薬を初めて使用した患者105例(平均年齢42.2±12.0歳、女性73.3%)。抗CGRP抗体薬開始前の月間頭痛日数(MHD)中央値は30日〔四分位範囲(IQR)10日〕、予防治療失敗数の中央値は5回(同4回)、4回超の失敗歴は64.8%、A型ボツリヌス毒素(BoNT/A)治療歴は34.3%と、臨床試験から除外されがちな症例が多く含まれた。一方、薬剤使用過多による頭痛(MOH)は含まれていない。処方薬の内訳はガルカネズマブが90例、フレマネズマブが15例だった

 3カ月ごとの診察で頭痛日誌を確認し、12カ月間追跡した。主要評価項目はMHDの50%以上減少とし、Cohenのκ係数を用いて治療開始後3カ月時と12カ月時で奏効・非奏効の割合を比較した。なお、オーストラリア保健省は、抗CGRP抗体薬の開始から3カ月時での月間"片頭痛"日数(MMD)の50%以上減少を治療継続の要件と定めており、今回の研究における主要評価項目とは要件が異なる。

効果判定時期の再検討が必要か

 治療開始後3カ月時にMHDが50%以上減少した患者の割合は52.4%で、3カ月時のMHD中央値は10日(IQR 18日)だった。これらの結果は、過去の報告とほぼ同等である。

 12カ月の追跡期間中に、25.7%が無効により、16.2%が有害事象により治療を中止していた。薬剤間の奏効率や中止率に差はなかった。

 12カ月時まで治療を継続した患者は50例で、このうち40例(80%)が50%以上奏効を達成した。κ係数による評価では、3カ月時と12カ月時の奏効率は一致しておらず(κ=0.130、P=0.171)、見かけ上の奏効率は12カ月時で大きく上昇しているが、40例中39例(全体の37.1%に相当)は、3カ月時に奏効が得られて治療を継続した患者である。

 オーストラリアのガイドラインは、治療開始から3カ月で効果判定を行い、無効例では治療の中止を推奨しており、今回の研究でも無効・その他の理由による中止が多かった。そのため、Ray氏らは「今回の結果から、遅れて効果が得られる可能性のある患者の割合や、12カ月時の奏効率を正確に把握することは困難である」との考えを示している。

 過去の研究では、3カ月時に無効だった患者の半数で遅れて奏効が得られており(Neurology 2023; 101: 482-488)、今回の知見も合わせ、効果判定時期を見直す必要性を示唆している。

持続性頭痛と予防治療失敗数は効果不良と関連

 3カ月時の効果不良と関連する因子は、ベースライン時の持続性頭痛(無症状の日が全くない場合の奏効率43.1% vs. 1日でもある場合63.8%)と、予防的治療の失敗数(4回超での奏効率41.2% vs. 4回以下73.0%)だった。Ray氏らは「これらの患者には別の治療法を考慮すべきである」と指摘している。一方、年齢およびBoNT/A使用歴と奏効率に関連はなかった。

 同氏らは「12カ月超の追跡において、慢性片頭痛患者に対する抗CGRP抗体薬は、MHDの有意かつ持続的な減少と関連していた。しかし、3カ月時と12カ月時の臨床的奏効率の一致率は低かったことから、規制当局(薬品・医薬品行政局)はこの点を考慮し、3カ月での効果判定の有用性について再検討すべきである」と結論している。また「特定の患者における抗CGRP抗体薬の有効性および安全性については、さらに検討が必要である」と述べている。

※本研究の開始時点で、オーストラリアで片頭痛に対し公的医療保険が適用される抗CGRP抗体薬はガルカネズマブとフレマネズマブのみ

(小路浩史)