再発寛解型多発性硬化症(RRMS)の治療において自家造血幹細胞移植(aHSCT)を支持するエビデンスは増えているが、ほとんどの国の臨床ガイドラインで標準治療には組み入れられていない。スウェーデン・Uppsala UniversityのThomas Silfverberg氏らは、aHSCTの実臨床での有効性と安全性を評価する観察コホート研究を実施し、その結果を J Neurol Neurosurg Psychiatry(2024; 95: 125-133)に報告した(関連記事「多発性硬化症の再発抑制に自家移植が有効」)。
174例を5.5年追跡
aHSCTの目的は、自己反応性リンパ球の排除により免疫系をリセットして長期の寛解を達成することである。近年、移植実績の蓄積、患者選択の改善、移植前処置の最適化によりその有効性と安全性は向上しており、スウェーデンの保健福祉庁は2016年に多発性硬化症(MS)に対しaHSCTを承認している。
今回Silfverberg氏らは、実臨床におけるRRMSに対するaHSCTの有効性と安全性を評価する多施設共同後ろ向きコホート研究を実施。対象は、2020年1月1日以前に同国でaHSCTを受け、全国MS登録および欧州骨髄移植学会(EBMT)レジストリにより前向きデータが収集されたRRMS患者174例。
主要評価項目は、aHSCT後5年時のNo Evidence of Disease Activity(NEDA)および治療関連死亡率、副次評価項目は10年時のNEDA、重篤な有害事象(AE)などとした。移植関連の安全性は、aHSCT後100日間の記録から分析した。なお、NEDAは臨床的再発なし、障害進行なし、MRI上での活動病変なし―などと定義される無疾患活動性の指標である。
移植時の年齢中央値は31歳〔四分位範囲(IQR)26~36歳〕、女性は64%、RRMS罹患期間中央値は3.4年(IQR 1.0~6.9年)、移植前に受けた疾患修飾薬(DMT)の治療レジメン数の中央値は2件(IQR 1~3件)で、23例が未治療だった。追跡期間の中央値は5.5年(IQR 3.4〜7.5年)だった。
無疾患活動性達成は5年後73%、10年後65%
Kaplan-Meier法による解析で、移植後5年時のNEDAは73%(95%CI 66~81%)で、治療関連死はなかった。
移植後10年時のNEDAは65%(同57~75%)だった。ベースライン時に障害のあった149例のうち、障害の改善は80例(54%)、安定55例(37%)で、悪化は14例(9%)だった。障害の悪化と再発との間に関連は認められなかった。
1例当たりの有害事象の平均件数±標準偏差は、グレード3が1.7±1.5件、グレード4が0.06±0.3件だった。最も多かった有害事象は、発熱性好中球減少症で68%に発生した。
MSに対するaHSCTの適用について、スウェーデンでは当初、他のレジメンでの治療が無効な最も疾患活動性の高いMSに対する救済治療と考えられていたが、その後1レジメン以上のDMT施行後も疾患活動性が残る患者や進行の速いRRMSにも適応が拡大された。今回の結果は、この変更を支持するものとなった。
以上の結果を踏まえ、Silfverberg氏らは「RRMSに対するaHSCTは、実臨床においても安全性を損なうことなく実施できることが示された」と結論。その上で、「aHSCTはより多くのMS患者に利益をもたらす可能性があり、疾患活動性の高いMSの標準治療として組み込まれるべきである」と指摘している。
(小路浩史)