能登半島地震の被災者には、知的障害などを抱えた人もいる。障害を持つ人は、普段と違う環境に置かれると落ち着きをなくし、周囲との間にあつれきを生んでしまうこともある。一人ひとりの特性に合った支援が求められるが、被災地の支援施設は職員確保もままならないでいる。
 建物や設備に被害が出た石川県穴水町の支援施設「石川県精育園」。職員のほとんどが被災し、地震から1カ月近くたっても、職員84人のうち15人ほどが出勤できずにいた。同園の入所者は約110人。県外からの応援職員などの助けを受けながら運営を続けるが、応援の数は安定せず、慢性的な人手不足に陥っている。
 人数が足りれば済む話でもないという。日常生活の介助には、入所者と同性の職員にしか任せられない仕事もある。例えば、女性入所者の排せつや着替え。男性職員が介助するわけにはいかないが、統括責任者の田中こず恵さんは「応援職員が全員男性ということもある。そうなると、女性職員の負担は変わらない」と話す。
 同園建物の応急復旧工事も田中さんの悩みの種だ。工事を行うには入所者に別の施設に移ってもらう必要がある。だが、環境の変化に敏感な人は少なくない。「慣れた環境、慣れた職員の元にいるときは落ち着いていられるが…」と、移動が入所者に与える影響を懸念する。
 特に注意が必要なのは、周囲の環境などに苦痛を感じると、それを言葉にできず人をたたいたり自らを傷つけたりする強度行動障害の当事者という。「理解した上で関わらないと、障害の悪化につながることもある」と話す。
 天井がはがれ、廊下に亀裂が入ったままでは運営を続けることもできない。「非常食だけの生活を続けており、健康面の心配もある。一度、安全な環境に移ってもらうほかない」。約50人については県南部の加賀市内の施設に移ることになった。残る約60人については、県外を含めて空きのある施設を探し、分散して移動してもらうという。 (C)時事通信社