能登半島地震で被災した高齢者施設で、職員の離職が相次いでいる。自宅が損壊するなどして避難を余儀なくされ、仕事を続けられなくなっているためで、介護サービスの縮小や休業に追い込まれた施設も出ている。現在、石川県内外に移送されている入所者は約1000人と「東日本大震災に匹敵する規模」(厚生労働省の担当者)だが、帰還を希望しても受け入れが難航する可能性がある。
 珠洲市と能登町で特別養護老人ホーム(特養)などを運営する社会福祉法人「長寿会」では、パートを含めた職員約230人のうち45人が「自宅が壊れて住めない」などの理由で退職したか、3月までに退職する意向という。入所者約100人は金沢市などに移送したが、離職者には看護師や介護士なども含まれる。椿原晃事務局長(52)は「サービスを縮小せざるを得ない状態だ」と声を落とす。
 輪島市の特養「みやび」でも、職員約60人のうち約半数が3月までに退職、または退職する意向を示している。入所者約50人は県内外に避難中。尻田武施設長(68)は「近く休業せざるを得ない状況だ。どれだけの入居者が戻ってくるのか、職員はどれだけ必要なのかといった介護ニーズがまったくつかめない」と先行きを不安視する。
 能登町の特養「こすもす」では、30~50代の子育て世代の職員が退職。水上直彦副施設長(60)は「子どもがいると、地元での生活再建を想像できないのでは。施設運営の中核になる職員が離れており、今後も増えそうだ」と漏らす。人手確保のため、閉鎖した事業所の元職員を再雇用することも検討しているという。
 2020年の国勢調査では、奥能登地域2市2町の65歳以上の高齢化率は45%を超え、最も高い珠洲市では約52%に上る。被災後は、地域のグループホームなど10以上の事業所が休業。病院で働く看護師の離職も相次いでおり、地域医療や介護サービスの継続が危惧される。 (C)時事通信社