妊娠糖尿病(GDM)と妊娠高血圧症候群(HDP)は、糖尿病高血圧、脂質異常症、心血管疾患などの慢性疾患のリスクを高めることが知られている。また妊娠中の過度の体重増加とGDMおよびHDPとの関連も示されている。しかし、妊娠中の体重増加が将来の慢性疾患リスクに及ぼす影響は明らかでない。国立成育医療研究センター周産期・母性診療センターの上原有貴氏らは、母子健康手帳データを用いたヒストリカルコホート研究で、この問題を検討。体重の増加が適正だった女性に比べ、過剰だった女性では約35年後の慢性疾患リスクが高かったとの結果をSci Rep2024; 14: 659)に報告した。(関連記事「妊娠中における体重増加指導の目安を策定」)

平均64歳の女性318例が対象

 対象は2017年4月~20年11月に国立成育医療研究センターを受診した妊婦の母親のうち、妊娠前BMIが25未満であった318例。妊婦(娘)を出産した際の母子健康手帳を持参してもらい、妊娠中の体重増加データを収集するとともに、現在の慢性疾患(糖尿病高血圧、脂質異常症、肥満)に関する質問票に回答してもらった(図1)。

図1.研究の概要

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 出産から回答までの平均期間は35.9±4.2年、現在の平均年齢は64.3±5.2歳であった。妊娠中の体重増加は不足が113例(35.5%)、適正(妊娠前BMIが18.5未満の場合は12kg以上15kg未満、18.5以上25未満の場合は15kg以上13kg未満)が85例(26.7%)、過剰(同15kg以上、13kg以上)が120例(37.7%)だった。現在の慢性疾患は、糖尿病が19例(6.0%)、高血圧が86例(27.0%)、脂質異常症が115例(36.1%)に認められた。

糖尿病、肥満高血圧のリスク上昇と関連

 妊娠中の体重増加が適正だった女性を基準として、分娩時年齢、分娩回数、妊娠前BMI、身長、出産から質問票記入までの期間を調整した多変量ロジスティック回帰分析で慢性疾患発症のオッズ比(OR)を算出した。

 その結果、妊娠中の体重増加と糖尿病(有病率10.0%、OR 1.36、95%CI 0.47~3.93、傾向性のP=0.013)、高血圧(同34.2%、1.51、0.80~2.86、傾向性のP=0.050)、肥満(同19.1%、1.84、0.78~4.38、傾向性のP:0.017)に関連が見られた(図2)。一方、脂質異常症との関連は認められなかった。母親の現在のBMIを調整した解析では高血圧との関連は消失したが(傾向性のP=0.398)、糖尿病(傾向性のP=0.025)および肥満(傾向性のP=0.017)との関連は維持された。

図2.妊娠中の体重増加と将来の慢性疾患の関連

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(図1、2いずれも国立成育医療研究センタープレスリリースより)

 以上の結果について、上原氏らは「妊娠中の過剰な体重増加を避け適正な増加を心がけることで、GDMやHDPなどの妊娠合併症だけでなく、将来の慢性疾患リスクを低減できる可能性が示された」と結論。その上で「妊娠中に過度な体重増加があった女性では定期的なフォローアップが必要だ」と付言している。

服部美咲