帝京科学大学自然環境学科講師の小林亮太氏と奈良県立医科大学客員教授の根来秀行氏は、健康な成人男性15例を対象に「鼻からの吸気4秒→息止め4秒→鼻からの呼気8秒」のサイクルでゆっくり呼吸する4・4・8呼吸法が動脈壁の硬化度(動脈スティフネス)に及ぼす即時効果をクロスオーバー試験で検討。その結果、4・4・8呼吸法を約5分間実施後30分の時点で動脈スティフネスの指標である上腕・足首脈波伝播速度(baPWV)および上腕収縮期血圧が有意に低下(改善)したとCardiol J(2024年2月13日オンライン版)に発表した。
動脈スティフネス、血圧、心拍変動などを評価
ゆっくり行う深呼吸は血圧を低下させることが知られており、血圧の変動と強く関連する動脈スティフネスを低下させる可能性がある。小林、根来の両氏は今回、そのような呼吸法の1つである4・4・8呼吸法が動脈スティフネス、血圧、心拍変動に及ぼす即時効果を検討した。
対象は20歳の健康な男性15例。8時間の絶食後、早朝にランダムに割り付けられた順番で4・4・8呼吸法(19サイクル、約5分間)と通常の呼吸法(対照法)を行った。心拍変動はホルモンの影響により男女で異なるため、今回の研究では男性のみを対象とした。
各呼吸法の実施前(ベースライン)、終了30分後、60分後、24時間後の時点で、動脈スティフネスの指標である頸動脈・大腿動脈脈波伝播速度(cfPWV)、baPWV、上腕血圧、心拍変動の低周波成分(LF、交感神経の活動を反映)および高周波成分(HF、副交感神経の活動を反映)を測定した。
30分後の脈波伝播速度と血圧が低下
測定値を解析した結果、cfPWVはいずれの呼吸法の実施後もベースラインと比べて有意差がなく、呼吸法間の有意差もなかった。
baPWVおよび上腕収縮期血圧は、4・4・8呼吸法の終了30分後にベースラインと比べて有意に低下したが(P<0.05)、60分後、24時間後では有意差が消失した。対照法の実施後は、いずれの時点でもベースラインと有意差がなかった。また、4・4・8呼吸法の終了30分後のbaPWVおよび上腕収縮期血圧は、対照法の終了30分後と比べて有意に低かった(P<0.05)。
心拍変動に関しては、4・4・8呼吸法の終了30分後の時点でベースラインと比べてLF値が有意に減少し(P<0.05)、HF値は有意に増加したが(P<0.05)、60分後、24時間後では有意差が消失した。対照法を実施後のLF値とHF値は、いずれの時点でもベースラインと有意差がなかった。また、対照法の終了30分後と比べ、4・4・8呼吸法の終了30分後のLF値は有意に小さく(P<0.05)、HF値は有意に大きかった(P<0.05)。
小林、根来の両氏は「研究対象は健康な若年成人であるため、今回の結果を高齢者や睡眠の質が低下している者に一般化する際は注意が必要」と限界を指摘した上で、「健康な若年成人男性において、4・4・8呼吸法は自律神経機能の調節や動脈スティフネスの改善に有効な可能性が示された」と結論。「4・4・8呼吸法は吸気に比べて呼気が長い。したがって、ゆっくりした深呼吸で呼気の時間を長めに取ることにより、酸素濃度の上昇や副交感神経系の活性化を介して血圧が低下する可能性がある。この点について、今後の研究で詳しく検討する必要がある」と付言している。
(太田敦子)