オーストラリア・University of New South Wales/ノルウェー・Norwegian Institute of Public HealthのClaudia Bruno氏らは、出生前に抗精神病薬に曝露された小児における神経発達障害および学習障害のリスクを検討するため、北欧5カ国の国民登録データを用いた大規模多国籍住民コホート研究を実施。抗精神病薬への出生前曝露によるリスク上昇は認められなかったことをeClinicalMedicine2024年3月17日オンライン版)に発表した。

知的障害、言語障害、学習障害のリスク上昇せず

 Bruno氏らは2000~20年のデンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの国民登録データから、妊娠前12カ月間になんらかの精神疾患と診断された母親から出生した単胎児21万3,302例を特定。妊娠期間中になんらかの抗精神病薬を少なくとも1回処方された母親から出生した児(出生前曝露児、1万1,626例、5.5%)と、妊娠前90日間および妊娠期間中に抗精神病薬を1回も処方されなかった母親から出生した児(非曝露児、20万1,676例)に分け、神経発達障害(知的障害、聴覚障害の診断を伴わない言語障害、学習障害、これらの複合)および学業成績不良(算数、国語)のリスクを比較。学業成績は、8~10歳(第2~4学年)時の全国標準テストの点数が最低四分位群に入る場合に成績不良と定義した。

 中央値で6.7年追跡した結果、8歳までの神経発達障害の累積発生率は、出生前曝露児で4.0%(95%CI 3.5~4.5%)、非曝露児で2.2%(同2.1~2.3%)だった。

 傾向スコアで調整したCox比例ハザード回帰モデルによる解析では、抗精神病薬への出生前曝露による神経発達障害のリスク上昇は、知的障害〔調整後ハザード比(aHR)1.08、95%CI 0.82~1.42〕、学習障害(同1.00、0.81~1.23)、言語障害(同1.06、0.89~1.26)、これらの複合(同1.06、0.94~1.20)のいずれでも認められなかった。

抗精神病薬の種類、胎内での児の曝露タイミング問わず

 また、傾向スコアで調整したPoisson回帰モデルによる学業成績の解析では、抗精神病薬への出生前曝露による成績不良は算数(調整後リスク比1.04、95%CI 0.91~1.18)、国語(Language arts、同1.00、0.87~1.15)のいずれでも認められなかった。

 これらの結果は、抗精神病薬の種類や胎内での児の曝露タイミングを問わずおおむね一貫していた。ただし、妊娠後期の曝露では神経発達障害の複合リスクがやや高かった(aHR 1.24、95%CI 1.00~1.53)。また、クロルプロマジンへの曝露で神経発達障害の複合リスク(同1.65、0.99~2.75)、言語障害リスク(同2.06、1.03~4.12)が上昇したが、曝露例自体は少数だった(それぞれ15例、8例)。

 以上の結果を踏まえ、Bruno氏らは「クエチアピンやオランザピンをはじめとする一般的な抗精神病薬への出生前曝露に、神経発達障害または学業成績不良のリスク上昇との関連は認められなかった。今回の結果は、妊娠中の抗精神病薬使用の長期安全性に関する確実なエビデンスを提供するものであり、妊娠中または妊娠計画中の女性精神疾患患者の管理における安心材料になるだろう」と結論している。

太田敦子