手術室での気管挿管は通常、直視型喉頭鏡を用いて行われるが、声門部の視認が困難な場合もあり、約8%の患者で挿管までに複数回の試行が必要となる。ビデオ喉頭鏡は気道の視認性を改善するが、視認性の改善による挿管試行回数への影響について、一貫した研究結果は得られていない。米・Cleveland ClinicのKurt Ruetzler氏らは、心臓・胸部・血管の手術を受ける患者においてビデオ喉頭鏡と直視型喉頭鏡による気管挿管を比較するクラスターランダム化クロスオーバー試験を実施。直視型喉頭鏡の使用例と比べ、ビデオ喉頭鏡の使用例では気管挿管の初回成功率が高く、挿管試行回数を減少させたことをJAMA(2024年3月18日オンライン版)に報告した。
8,429件の手術を手術室ごとにクラスター化
対象は、2021年3月~22年12月にCleveland Clinicの心臓外科で待機的または緊急の心臓・胸部・血管手術を受けるために、全身麻酔下でシングルルーメンチューブを気管挿管された18歳以上の患者。手術室を、初回の挿管を強弯曲ビデオ喉頭鏡により行う11室と直視型喉頭鏡(Macintosh型)により行う11室にランダムに割り付け、1週間後に交差させた。各手術室をクラスターとしてintention-to-treat(ITT)解析を行った。
主要評価項目は、外科手術ごとの手術室内での挿管試行回数とした。副次評価項目は挿管失敗とし、①責任医師が別の喉頭鏡に切り替えた場合(切り替えのタイミング・理由は問わない)、②挿管試行が3回超に達した場合、③気道損傷および歯牙損傷―の複合と定義した。
8,429件(7,736例)の外科手術を解析に組み入れた。年齢中央値は66歳(四分位範囲56〜73歳)、女性35%、待機的手術が85%だった。挿管の施行者は、麻酔看護師38.9%、レジデント29.8%、フェロー14.1%、麻酔看護学生13.9%、麻酔医2.7%などだった。
ビデオ喉頭鏡群で挿管の初回成功率高く、施行回数減少
2回以上の挿管試行を要したのは、直視型喉頭鏡群の4,016件中306件(7.6%)に対し、ビデオ喉頭鏡群では4,413件中77件(1.7%)のみと有意に少なかった(挿管試行回数の比率0.20、95%CI 0.14〜0.28、P<0.001)。
挿管失敗は、直視型喉頭鏡群の4,016件中161件(4.0%)に対し、ビデオ喉頭鏡群では4,413件中12件(0.27%)のみと有意に少なかった(相対リスク0.06、95%CI 0.03〜0.14、P<0.001)。交絡因子調整前の絶対リスク差は-3.7%(95%CI -4.4~-3.2%)だった。
気道および歯牙の損傷は、ビデオ喉頭鏡群が41件(0.93%)、直視型喉頭鏡群が42件(1.0%)で、両群に有意差はなかった。
これらの結果を基に、Ruetzler氏らは「米国の単一学術医療施設において、全身麻酔のために気管挿管が必要な手術を受ける成人を対象に、強弯曲ビデオ喉頭鏡と直視型喉頭鏡の成績を比較したが、ビデオ喉頭鏡は気管挿管の初回成功率が高く、気管挿管完了までの試行回数を減少させた。手術患者の気管挿管において、ビデオ喉頭鏡は直視型喉頭鏡と比べ好ましいアプローチであることが示唆された」と結論づけている。
(小路浩史)