医学部トップインタビュー

人間性の育成を重視
山陰の地域医療を支える-鳥取大学医学部

 ◇85の関連病院で研修

 卒後の初期研修は山陰と関西を中心に85の関連病院と連携し、大学病院と1年ずつの「たすきがけプログラム」を採用、大学病院から地域の診療所までを含め、研修医の希望に応じた多彩な研修プログラムが設定できる。

 シミュレーションセンターには、基本的臨床技能の向上から手術支援ロボット・ダ・ヴィンチなどの高度医療機器を使った実践訓練に至るまで、さまざまなシミュレーターがあり、効果的な技術講習が受けられる。

ンタビューに応える黒沢洋一・鳥取大学医学部長

ンタビューに応える黒沢洋一・鳥取大学医学部長

 新規医療研究推進センターでは、主に病院で使う機器の開発が行われており、企業との共同開発の結果、製品化に結び付いたものもある。シミュレーターロボット「mikoto」は、気管内挿管や内視鏡、喀痰(かくたん)吸引を間違ったところに入れると、「痛い」などとリアクションする。

 「日常の診療をしながら必要なものを企業と共同で製品化しているのですが、シミュレーターロボットは患者の苦痛を軽減する手技を高めるのに役立っています」

 日本をリードする「がんウイルス療法」の開発、腹直筋を使った乳房再建術、アロマを用いた認知症予防策など、鳥取大学医学部ならではのユニークな研究が数多くあり、全国的にも注目されている。少子高齢化が進んだ地域特性を生かし、環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に中国地方で唯一参加している。

 ◇社会医学分野で開眼

 黒沢医学部長は鳥取大学医学部の卒業。高校時代は社会科の教師や映画監督に憧れた時期もあったが、周囲の流れに乗って医学部に進んだ。

 「入学すると目的を失って、何をしていいのか分からなくなった。自分が医師になっていいんだろうかという疑問が湧いてきたりもしました」

 将来の道について悩んだ結果、たどりついたのが社会医学という分野だった。医学部卒業と同時に公衆衛生の道に進み、林業従事者に多い振動病の研究では第一人者となった。

 「手の指の血圧を測定する器械を使って、指先が白くなるレイノー現象を診断する方法を見いだし、日本での診断基準をまとめました」

 スウェーデン留学では、労働に対する日本との意識の違いにカルチャーショックを受けた。「『職場で一番プライオリティーが高いのは人間だ。日本はどうだ』と聞かれたときに、答えられませんでした」

鳥取大学医学部

鳥取大学医学部

 日本では過重労働が社会問題となって久しいが、スウェーデンでは医療関係者が2交代制をとっており、週40時間の労働時間を守って働いていた。

 「特に女性医師が増えてくれば、日本もそうしないといけないのかなと思います。一般企業では長時間労働がだいぶ改善されてきていますが、医師はまだまだですね」

 ◇若い世代に期待

 今後、少子高齢化やグローバル化が進んでいく中で、時代に沿った医療の構築が必要になってくる。高齢化が進めばさらに低侵襲な医療が必要になる。テーラーメイド医療が進み、高額になっていく医療費をどうするのか。科学技術が発展したとき、倫理的な問題をどう考えていくのか、など解決すべき課題は山ほどある。

 黒沢医学部長は「次の日本の新しい医療を提案するための基礎は当医学部で身に付けていただいていると思います。さらに飛躍して、次の新しい時代の新しい医療を自らが実践し、提案できるような医師になっていただきたい」と学生たちに期待する。

【鳥取大学医学部 沿革】
1949年 鳥取大学設置と同時に医学部設置
  51年 鳥取大学医学部付属病院となる
      医学部付属看護学校設置
  58年 大学院医学研究科設置
  67年 医学部付属衛生検査技師学校設置
  75年 鳥取大学医療技術短期大学部設置
  99年 医学部保健学科設置
2004年 国立大学法人に移行
      大学院医学系研究科保健学専攻(修士課程)設置
  09年 大学院医学系研究科臨床心理学専攻(修士課程)設置
  17年 新規医療研究推進センターを設置
  18年 付属病院が鳥取県ドクターヘリの運航を開始

  • 1
  • 2

医学部トップインタビュー