教えて!けいゆう先生

医療ニュースのタイトルに注意 
判断を誤ると健康被害も

 医療関係のウェブニュースを毎日のように見ていると、タイトルの付け方に疑問を感じることが多々あります。医療情報は時に人の命に関わるため、誤解を招く表現には注意する必要があります。 

医療ニュース、誤解を招くタイトルに気をつけて

 ◇実用化には長い年月 

 例えば、「〇〇でがんが完治する可能性」といった言い回しのタイトルで記事が出ると、患者さんから、「〇〇ががんに効くと聞いたのですが、本当ですか。私にも使えますか」などと言われることがしばしばあります。「今の抗がん剤をやめて、〇〇にした方がいいんじゃないだろうか」。そんなふうに不安になる方もいます。 

 ところが、ニュースの中身を確認すると、「ある化学物質を使ってがん細胞の増殖を抑えることに成功した。これが実用化すればがんを完治できる可能性がある」と書かれてあるにすぎない、ということがあるのです。 

 もちろん、あらゆる薬の開発は細胞レベルあるいは動物実験のレベルで有効性が証明されるところから始まります。しかし、こうした実験レベルで「有効かもしれない」と報告された薬が実用化されるには、何年、何十年もの年月と莫大な費用を要します。 

 一つのがん治療薬を開発するのに、約7.3年の時間と648億ドルの費用がかかる、とする報告もあります(いずれも中央値)。*注*

 例えば、2019年に本庶佑先生のノーベル賞受賞によって脚光を浴びた「PD-1阻害薬」。本庶先生率いる研究グループがこのPD-1という分子を初めて同定したのは1992年でした。PD-1阻害薬ががんの治療薬として認可されたのは2014年ですから、実に20年以上かかったことになります。 

 ◇信頼関係が崩れると… 

 さらに、実験レベルで「効果があるかもしれない」とされた物質の中で、実用化されるのはごくわずかしかありません。毎年、世界中の研究室で膨大な数の治療薬の候補が生まれ、そしてそのほとんどが実用化されずに消えています。 

 ニュースのタイトルに「完治」のような、やや現実離れした言葉を使ってしまうと、がん治療を受けている患者さんや、これから受ける予定の患者さんを混乱させてしまう恐れがあるのです。 

 他にも、タイトルだけを読むと医療不信を助長しかねないニュースで現場が混乱することもあります。例えば、「〇〇病院では手術後の死亡率が高い」というイトルの記事があり、その病院に通う患者さんが不安になってしまったケースがあります。 

 しかし、内容を読んでみると、救命が難しい症例を特に多く扱う救急病院で、「死亡率が高いこと」が必ずしも「医療の質が低いこと」を意味するものではありませんでした。 

 タイトルによって読者がミスリードされ、医療者と患者さんとの信頼関係が崩れると、取り返しのつかない事態になってしまいます。 

 ◇ウェブニュースの制約 

 むろん、センセーショナルで分かりやすいタイトルをつけないとクリックされない、読まれない、という事情もあるのでしょう。私自身も複数のウェブニュースサイトで執筆していますが、いかに誤認されない範囲でクリックしたくなるタイトルにするか、毎度頭を悩ませます。 

 しかし、ウェブニュースは新聞とは違い、「クリックしないと中身が全く見えない」という制約があります。読み手側も、タイトルだけで読んだ気にならず、何かの「判断」や「解釈」をする前にきちんと本文を読むことを習慣にしていただきたい、と思います。 

 内容を誤認したまま知人に伝えたり、SNSで拡散したりすると、誰かに健康被害を与えてしまう恐れすらある、という点に十分ご注意いただきたいと思います。(外科医・山本健人) 

*注*参考文献 

JAMA Intern Med. 2017;177(11):1569-1575. doi:10.1001/jamainternmed.2017.3601

教えて!けいゆう先生

横浜市立大学医学部医学科同窓会 倶進会