医学の窓辺

NITEによる新型コロナウイルスに対する
代替消毒方法の有効性評価を考察する 名古屋市立東部医療センター 名誉院長 津田喬子

<はじめに>

 私が勤務する老人保健施設では、希塩酸を電気分解して生成する殺菌料で食品添加物でもある微酸性次亜塩素酸水(塩素濃度20ppm)を、3年前からインフルエンザウイルス、ノロウイルス感染予防として使用している。新型コロナウイルス感染リスクの渦中でも、器物の清拭(せいしき)、床の拭き掃除、従業員・入所者の手指の消毒はもとより、廊下やホールでは噴霧消毒も行っていて、期待以上の感染予防効果を実感している。

次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの特徴の比較

 新型コロナウイルスのパンデミックな拡散後、品薄となって入手が困難となったエチルアルコールに代わる感染予防物質をネットで検索すると「次亜塩素酸水」と称するさまざまな製品が掲載されている。商品に次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム(原料)とあっても、それらの濃度や他物質の添加等の表示は明記されていない。本当に効果があるのか?経済産業省(以下、経産省)による消毒用アルコールの代替品についての有効性評価を振り返ってみた。

<経産省が消毒液の検証に着手>

 経産省はこの有効性評価を傘下の(独)製品評価技術基盤機構(以下、NITE)へ委託した。NITEは「新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価に関する検討委員会」(以下、委員会)を立ち上げ、第1回委員会を4月15日に開催し1)、2)、5月29日に中間結果3)、6月26日に最終結果を公表した4)。

 委員会が担ったミッションは、一般家庭等で入手可能なもののうち一定の消毒効果を有し得る候補物資について「科学的な客観性の確保」、「迅速な対応」、「国民にわかりやすい整理」のバランスに配慮した検証試験を実施することであった2)。確かに2カ月半未満で最終結果の公表には至ったが、新型コロナウイルス感染を防ぐ「科学的な客観性の確保」や「国民にわかりやすい整理」であるかについては疑問が残った。

<検証対象とした代替消毒方法の内訳>

 「対象物質は界面活性剤(台所用洗剤など)、次亜塩素酸水(電気分解法で生成したもの)および第4級アンモニウム塩であり、原則として物品に対する消毒を想定したものとなる」とある2)。しかし、当初は検証対象物質が「ウイルスのふき取り」に有効な界面活性剤の羅列であって、期待されていた抗ウイルス物質についての検証は先送りにされた。

次亜塩素酸の存在比率のpH依存性

<委員会の次亜塩素酸水に対する認識>

 次亜塩素酸水とは、食品添加物(殺菌料)として厚労省が2002年(2009年、2012年改正)に許可した10~80ppmの有効塩素濃度を有する電気分解で生成される電解水である(図1)5)〜7)。電気分解する原料によって強酸性、弱酸性、微酸性の3種類あり、内閣府食品安全委員会においてpH5.67~6.3(微酸性)の次亜塩素酸水は使用後に塩素が残留しないことを条件に使用を認めている。この次亜塩素酸水は殺菌・抗ウイルス作用を示す塩素は大気中に放出されて水に戻ってしまうために塩素への曝露はほとんどなく、畜産・食品業界等において広く用いられている。

 水道やプールの殺菌、家庭用の塩素系漂白などに使われている次亜塩素酸ナトリウムも食品添加物(殺菌料)に指定されているが、強アルカリ性であり人体には有害である(表1)。

 第3回委員会(5月21日)において、電気分解によって生成された次亜塩素酸水4種については引き続き検証試験を実施するとしながら、なぜか「市場の実態に合わせて」電気分解以外で生成したものも検証評価の対象に追加し、「有効塩素濃度と溶液のpHが同等であれば、特定の製法(電気分解・筆者注)で生成された次亜塩素酸水の検証結果に基づいて、他の製法(非電気分解・筆者注)で生成されたものでも効果は同等」と「見做し」た8)。後者は水酸化ナトリウムに塩素を吸収させた次亜塩素酸ナトリウムに水や塩酸を添加することによってpHを調整したものであって、ナトリウムを全く含まない次亜塩素酸水とは構造と性質において明確に区別される9)、10)。

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