医学の窓辺

NITEによる新型コロナウイルスに対する
代替消毒方法の有効性評価を考察する 名古屋市立東部医療センター 名誉院長 津田喬子

<5月29日の中間報告>

 計7種の界面活性剤(洗剤)のみを新型コロナウイルスの「除去に有効」と判断したが、次亜塩素酸水は引き続き検証試験を実施することとした。結局のところ、電気分解で生成する次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムを原料とした非電気分解による製品については検証外に置かれてしまった。
この中間報告後にNHKは両者の区別をすることなく、「次亜塩素酸水の有効性は確認されないとNITEが発表。噴霧を控えるように呼びかけている。」という科学(化学)的に理解しがたい誤報を流した(現在でも訂正されていない)。有識者からは今後の次亜塩素酸水による感染予防対策に対して、国民の混乱を招きかねないと指摘されている11)。

 しかし、この中間報告より前に、帯広畜産大学は食塩水を原料にした無塩型次亜塩素酸水(電気分解)を用いた実験において、新型コロナウイルスの不活性効果は含まれる遊離塩素濃度に依存することを発表していた12)、13)。さらに北海道大学の研究チームはNITEの中間報告対象とほぼ同じ条件下で検証し、次亜塩素酸水(pH5.5、40ppm)において培養状態の新型コロナウイルスが30秒で不活化したと発表している14)。

<文部科学省の混迷>

 文部科学省(以下、文科省)も次亜塩素酸水の噴霧使用に関して迷走した。NITEの中間発表後に、児童生徒等がいる空間での噴霧器の使用を禁じた15)。しかし、12日後には有人空間に噴霧することができるものがあることを認め(それが次亜塩素酸水か次亜塩素酸ナトリウムであるかは特定していない)、使用に当たってはメーカーや厚労省などの関係省庁が提供する情報、経産省のファクトシートなどから使用者が「独自」に判断することを求めた16)。

 この間、各地で使用されてきた次亜塩素酸水を用いた噴霧器が次々と撤去された。撤去が不幸中の幸いであった事例がある。福岡県において、次亜塩素酸水を噴霧できる加湿器を業者から数百器購入したが突然に使用を見送った(6月17日、毎日新聞)。ここで「次亜塩素酸水」と称した噴霧液は、絶対に人体への使用ができない次亜塩素酸ナトリウムを希釈したものであった。もし噴霧を行っていたら児童生徒への健康被害が発生したと思われる。

<6月26日のNITEの最終報告>

 次亜塩素酸水による「拭き掃除」なら80ppm以上、「流水でかけ流す」なら35ppm以上の有効塩素濃度が必要であるとしたが、濃度設定の根拠は明らかではない3)。この塩素濃度で実際に有効性が確認できたのか疑問が残る「最終」報告であった。

<今後の検証に期待すること>

 今後、第2波、第3波の新型コロナウイルス感染の危険性がある中で、ウイルス不活性化効果があり、手指消毒や空間噴霧も含めた多様な使用が可能な消毒液が求められる。既に微酸性次亜塩素酸水のノロウイルスやインフルエンザウイルス対する感染防御効果(不活性化)が報告されており17)、18)、新型コロナウイルスの不活性化も期待できる。次亜塩素酸水のウイルス不活性化作用は次亜塩素酸の量に依存することから、次亜塩素酸を一定量含み、人体への有害性の小さい中性に近いものが最適な新型コロナウイルス感染予防候補物質と考える。

 新型コロナウイルスのパンデミック感染という未曽有の国難のときに、今回の検証結果は、感染防御において全く中途半端であって国民が期待していたものではなかった。

 NITEに全てを任せるのではなく、国民の健康を守るべき厚労省が主導して国立医薬品食品衛生研究所、国立感染症研究所を加えた3施設からなる「省壁」を超えた新たな合同プロジェクトチームを早急に立ち上げ、新型コロナウイルス感染予防に真に有効かつ安全な方法を提示することを切に期待する。パンデミック感染第2波は進行中であり、第3波は必ず来る。それを最小限にするためには今からでも遅くはない。

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