男性にも産前・産後うつ?
食事と睡眠を優先して 国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部 竹原健二室長
妊娠中や出産後に女性が憂鬱(ゆううつ)な気持ちになったり(マタニティブルー)、より深刻化してうつ病を発症したりすることは知られている。しかし、同時期にパートナーである男性もそうしたメンタルヘルスの不調を訴えることがあるという。こうした男性の「産前・産後うつ」の問題に詳しい、国立成育医療研究センター研究所(東京都世田谷区)政策科学研究部の竹原健二室長に話を聞いた。
産前・産後うつ状態の割合は男女同程度
▽男女でほぼ同程度
男性の産前・産後うつ状態について、欧米では15年ほど前から研究が進み社会的にも認知されてきている。日本でも男性の積極的な育児参加が叫ばれるようになった2010年のイクメンブーム以降、男性でも不眠や意欲低下などの抑うつ症状を訴えるケースが目立つようになったという。
そこで竹原室長の研究グループは、12年に妊婦とその男性パートナー270組を対象にメンタルヘルスについて調査した。その結果、妊娠20週から産後3カ月における産前・産後うつ状態の割合は、女性が7.0~10.9%、男性が6.3~9.0%と男女ともほぼ同程度であることが分かった。
▽家事より栄養と睡眠を
男性が産前・産後うつ状態になると何が問題なのか。竹原室長によると、育児の質の低下など養育環境の悪化につながり、子どもの発達に悪影響を及ぼしかねないといったデータがある。また就労中の場合、うつ病を発症すると労働生産性の低下や休職・退職による経済的損失が懸念される。つまり、男性本人だけでなく、家計を共にする女性パートナーや子ども、ひいては会社や社会全体にとっても深刻な問題となる。
現時点で男性の「産前・産後うつ病」という病名は公には認められていないため、症状に応じた対症療法しかない。乳幼児を持つ男性の勤務時間の短縮が望ましいが、個人でできる対策として、竹原室長は、栄養バランスの取れた食事と十分な睡眠を重要視。「掃除の回数を減らす、洗濯物を畳まないなど、家事の時間を減らして、とにかく休養を」とアドバイスする。
周囲も、産前・産後は男性もメンタルヘルスの不調に陥りやすい時期であることを理解し、体調不良が見られたら、「頑張って」と声は掛けずに、休ませてあげることが大切だ。竹原室長はさらに、男性に対して「子育てを長期プロジェクトと考え、パートナーの女性と一緒に将来的に社会貢献できる人材を育てているというプラス面にも目を向けましょう」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2020/08/18 15:38)