医学部・学会情報

降圧薬レニン-アンジオテンシン系阻害薬の
新型コロナウイルス感染症の重症化への影響について Kanagawa RASI COVID-19研究の取り組み

A. 主要評価項目:

(1)院内死亡
(2)体外式膜型人工肺(Extracorporeal membrane oxygenation, ECMO)使用
(3)人工呼吸器使用
(4)集中治療室(ICU)入室

B. 副次評価項目:
(1)酸素療法
(2)新規または増悪する意識障害
(3)収縮期血圧90mmHg以下
(4)CT検査での肺炎

C. “重症肺炎”:酸素療法以上の治療を要した肺炎

 まず、患者全体を対象とした単変量解析の結果では、高齢(65歳以上)、心血管疾患既往、糖尿病高血圧症が酸素投与を必要とする“重症肺炎”と関連し、さらに、多変量解析の結果では、高齢(65歳以上)が“重症肺炎”と有意に関連しました(表)。

 次に、高血圧症患者を対象に解析を行うと、降圧薬の一種である、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)を新型コロナウイルス感染症の罹患前から服用している患者では、服用していなかった患者よりも、主要評価項目の複合、院内死亡、人工呼吸器使用、ICU入室の頻度が少ない傾向でした(図2)。

図2:高血圧の新型コロナウイルス感染症患者では、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)服用群では非服用群と比較して、新型コロナウイルス感染症に関連した院内死亡、人工呼吸器使用、ICU入室が少ない傾向

図2:高血圧の新型コロナウイルス感染症患者では、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)服用群では非服用群と比較して、新型コロナウイルス感染症に関連した院内死亡、人工呼吸器使用、ICU入室が少ない傾向

 また、副次評価項目に関しては、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)を新型コロナウイルス感染症の罹患前から服用している患者では、服用していなかった患者と比較して、新型コロナウイルス感染症に関連した意識障害が有意に少ないことがわかりました(図3)。

図3:高血圧の新型コロナウイルス感染症患者では、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)服用群では非服用群と比較して、新型コロナウイルス感染症に関連した意識障害が有意に少ない

図3:高血圧の新型コロナウイルス感染症患者では、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)服用群では非服用群と比較して、新型コロナウイルス感染症に関連した意識障害が有意に少ない

 本研究の結果、レニン-アンジオテンシン系阻害薬が新型コロナウイルス感染症重症化を予防する可能性が示唆されました。今回のKanagawa RASI COVID-19研究で得られた知見は、現在世界的なパンデミックとして認識されており、日本においても感染流行の第二波が広がっている状況下において重要な示唆を与えると考えられます。

今後の展開

 新型コロナウイルス感染症はまだまだ収束の見込みが立たず、さらなる流行の拡大をたどっています。感染予防、重症化させない治療法の確立が急がれており、国内外で開発中の新型コロナウイルス感染症治療薬は、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬と、重症化によって生じる「サイトカインストーム」や「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」を改善する薬剤に分けられます。レニン-アンジオテンシン系阻害薬であるACEI阻害薬、ARBは後者の薬剤として期待されており、今後はさらなる大規模集団で検討し、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)の有効性を証明することができれば、新型コロナウイルス感染症の重症化予防や治療効果の向上への貢献が期待されます。


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