Dr.純子のメディカルサロン

困難を乗り越える「リフレーム」思考法~コロナ禍の適応障害を防ぐために~ 第55回

 新型コロナウイルス感染の拡大で、私たちのライフスタイルは、大きく変化しました。仕事環境や経済環境の変化、交友関係やコミュニケーションの変化などとともに、生活リズムが乱れて体調を崩したり、精神的に不安が続いて不眠や気持ちの落ち込みを訴えたりする人が多いのが現状です。

 こうした状態は、新型コロナによって起こった「適応障害」といえるでしょう。

 適応障害とは、環境の変化や対人関係のストレス、身内の不幸などのストレス要因があり、3カ月以内に起こるさまざまな症状のことです。

 適応障害の症状には、精神的症状、身体的症状、行動に見られる症状があります(表参照)。

 コロナ禍のリモートワークで、こうした適応障害を早期に見つけるのは難しいことです。しかし、例えば、テレビ会議などで、会議の時間に遅れたり、入れなかったり、化粧や服装が乱れていて、いつもと感じが違うといった人がいたら、それに気付いた人が声掛けなどをお願いしたいと思います。

 ◆気付きと声掛け

 コロナ禍による適応障害を早期に見つけ、受診につなげるためには、本人の気付きとともに、周囲の人の気付きと声掛けが大事です。

 その声掛けですが、声掛けをする際、「クローズドクエスチョン」にせず、「オープンクエスチョン」にすることが大事です。

 クローズドクエスチョンとは、「イエス」「ノ―」という回答の範囲が決まっている質問のことです。例えば「元気?」「大丈夫?」などですが、この質問だと、たとえ調子が悪くても「元気です」「大丈夫です」と答えてしまいがちです。

 実際、「上司から『大丈夫?』と聞かれたけれど、とても調子が悪いとは言えなかった」という声も聞きました。

 ◆どう声掛けするか

 相手の体調を気遣う場合は、できるだけオープンクエスチョンで声掛けしてほしいと思います。

 オープンクエスチョンとは、「イエス」「ノー」の回答範囲を決めるのではなく、相手が自由に答える範囲を広げることで、相手の状況を具体的に知ることができ、会話が深まります。

 例えば、相手の体調を気遣う場合、「元気?」ではなく、「最近、気温も不安定だけれど、調子はどう?」「自分は急に寒くなって風邪を引きそうだけど、あなたはどう?」などと聞くと、相手からの返答も、より具体的になるはずです。これをきっかけにして、体調不良者を早期に受診につなげることもできます。


 ◆適応障害の治療

 適応障害の治療は、ストレスの原因となる環境の改善と本人のストレス対処能力のアップがメインです。

 コロナ感染症の拡大という環境を変えるのは難しいので、本人のストレス対処能力を高めることが必要です。そのためには、思考回路を柔軟にする必要があり、「リフレーム」という物の考え方が役に立ちます。

 リフレームとは、「物事を捉える枠組みを変える」ことを指します。簡単に言えば、物の見方を柔軟にすることです。

 リフレームは、すなわち、代替案を見付けるということなのです。代替案では、全く同じにはできないでしょう。しかし、「全か、無か」という単純な物の考え方を修正して、物事に対応しようとする姿勢が、適応障害を乗り切るのに役立ちます。

2020年7月下旬の東京・代々木公園(本文と直接関係はありません)【AFP時事】

2020年7月下旬の東京・代々木公園(本文と直接関係はありません)【AFP時事】

 ◆自己肯定感をアップ

 例えば、いつもの通勤経路で交通渋滞が起こったり、電車が止まったりすると、ほかの経路で目的地にたどり着く方法を考えるはずです。

 ほかの経路では、同じ時間には着けないでしょう。でも、目的地に着くことはできます。簡単に言うと、このように、ほかの方法を見付けることがリフレームです。

 コロナ禍で、いつも仕事帰りに通っていたヨガ教室が閉鎖になり、行けなくなったとします。

 「行けないから、やらない」という考え方ではなく、他の方法を考えます。「ほかにできる運動はないか」「ヨガを教室ではなく、自分の家でユーチューブを見ながらできないか」「一人でするのはつまらないから、仲間とオンラインで時間を決めてできないか」などと、代替案を考えます。

 もちろん、いつもと同じようには、できないでしょう。ただ、このように代替案を見付け、実行していくことで、自分に対して、自己肯定感がアップします。こうしたことが、適応障害を予防するのに役立つはずです。

 ◆日本ストレス学会の視聴が可能に

 ここで、日本ストレス学会のお話です。

 同学会は通常、医師や医薬学の研究者、公衆衛生の専門家など、医療、保健関係の人たちの参加で開催されます。

 しかし、今年はコロナ感染症拡大により、オンラインで行われるので、医療関係者以外の一般の人も視聴できるというシステムになっています。

 セッションごとに、関心のあるものを選んで、いくつでも視聴できます。このことは医学の学会としては画期的だと思います。

 コロナストレスと認知行動療法では、この分野の第一人者の大野裕先生が物の見方の変換について講演します。また、ポストコロナ時代のストレス対策について川上憲人先生が講演し、私は働く女性の健康とキャリア支援について講演します。

 他にも、依存やがんのサポート・マインドフルネスなど興味深いテーマがそろっています。ストレスに関心のある方は、ぜひ参加なさってはと思います。

 ※学会プログラムはこちら(10月29日からオンデマンド開催)
 ※参加申し込みはこちら

(文 海原純子)


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