歯学部トップインタビュー
日本最大級の総合大学、共同研究も充実
~新校舎で理想的な学習環境-日本大学歯学部~
日本大学は19研究科、16学部がある日本最大の総合大学の一つである。歯学部は1916年に佐藤運雄氏が設立した東洋歯科医学校に始まり、2016年に創設100周年を迎えた。歯科医学は予防医学の入り口であり、医学的知見も歯科医師には必要という観点から、全身と関連付けた歯学教育を行う。22年4月には新校舎が完成、教育環境も飛躍的に向上した。本田和也歯学部長は「一つの建物の中に教育、臨床、研究のすべての機能が集約されている大学は珍しい。教育・研究や臨床に携わる人が一つの視野に入る状態は、学生にとって大いに刺激になる。図書館も充実して、学生が勉強しやすい環境が整った。後は国家試験の合格率を上げるだけ」と意気込みを語る。
本田和也歯学部長
◇コロナで減った歯科受診
全国民を対象にした国民皆歯科健診の3~5年後のスタートに向け、具体的な検討が始まった。日本大学歯学部の教育理念は歯科医療を口腔(こうくう)内だけにとどめるのではなく、全身との関連で診るという医歯一元論を基本としている。設立当初からこのことを教育理念として掲げてきたことが長い年月を経て、ようやく国にも認められた形となった。
「コロナ禍で、特に高齢者が歯科医院への受診を控え、患者さんの数が半分以下に減ったところも多いようです。2年以上も放置した結果、虫歯や歯周病の悪化、入れ歯が合わないなどの弊害がたくさん出ています。国民皆歯科健診はオーラルケアの重要性を国民にアピールする良い機会として、大いに期待しています」
新校舎外観
◇総合大学のスケールメリット
16学部を擁する総合大学のメリットを生かし、学部の垣根を越えた共同研究も積極的に進められている。本学では大学独自の研究として、「理事長・学長特別研究」があり、各学部が連携してエントリーし、選考されると1億円規模のまとまった研究費が支給される。
「この大きな研究費を獲得できるのは研究者にとっては魅力だと思います。例えば、私の関係している研究ですが、ラオスのヘルスサイエンス大学との遠隔診療システム開発もその一つです。日本大学理工学部が携帯の医療診断用ソフトを開発し、そのソフトを使って医科・歯科診断用の問診表をラオス語に変換して提供し、その問診表を使ってラオスの医師や歯科医が診断をしています。難しい症例は英語に変換して日本に送られ、画像所見も併せて日本大学医学部・歯学部の医師、歯科医師が診断し、読影所見をラオスに送り返しています。そして、この経済的効果を日本大学経済学部や商学部の先生方が調査を行うなど、今後も医療技術の海外への輸出は重要な案件だと考えています」
◇歯科医師志望の学生を募集
本田歯学部長は父親が医師、親戚には歯科医師が多い環境で育った。
「私は、なんとなく『歯医者になればいいのかな』というくらいの軽い気持ちで入学しました。今の学生さんの中にもいるかもしれませんが、その学生さんとほぼ一緒の気持ちかもしれません。だから実はあまり強く言えないんですよ」と自嘲気味に話す。
「私の時代は新入生150人中、ストレートで歯科医師国家試験に合格したのは約80人でした。約70人は留年か退学をしていました。進級するのは本当に大変でしたので、今と変わりは無いと思っています。しかし、歯科医師国家試験の合格率は約80%と高かったです。今年の歯科医師国家試験の受験者数が3198人、合格者数は1969人で合格率は61.6%です。本当に厳しい環境になっています。本学としては、歯学部は歯科医師になるために入学して来るわけですから、歯科医学に興味を持っている学生に入学してほしいです。食べること、話すことは人が生きていく上で必要不可欠な行為ですから、そのために歯科医師になったら、どのように患者さんと向き合っていくのかを考えられる学生に入学してほしいと思っています。親が歯科医師だから、親戚に言われたから歯科医師になるという感覚では、近年の厳しい国家試験は合格できません」と本田歯学部長はくぎを刺す。
入学後は1年次から一般向けの講演のような形で基礎研究の面白さや歯科医師の仕事のやりがいなどを積極的に伝える仕組みをつくっている。これは、一日でも1時間でも早く自分のなりたい歯科医像を描かせるためである。
「とにかく、本人がやる気を出さないとダメです。入学試験がそれほど難しくないこともあって、残念ながら高校時代にあまり受験勉強をしてこなかった学生が増えています。そういう学生を6年間でどれだけ教育して、休学や留年をさせずに国家試験に合格させるか、教員たちは日々頭を悩ませて必死で働いています。教職員が一丸となって必死に勉強の仕方を教えて、6年生になると、言われなくても勉強するようになってきます。全国の私立歯科大学の中で校舎は一番新しく、環境は整っています。後は本人たちがどうやって勉強するかです」
第3実習室=スキルスラボ
◇カリキュラム改編で国試対策を強化
歯科医師国家試験の合格率向上を目指して、23年度からカリキュラムを大幅に改編する。00年に策定された現行カリキュラムの問題点について、教学戦略委員会および学務委員会が19年より検証を始め、科目間や分野間のつながりが見えにくい、講座間の連携が十分でなく、効果的に実施されていないなど、幾つかの問題点が明らかとなった。そこで学生への学習支援を充実させることを目的とし、現行カリキュラムの問題点を改善した新カリキュラムの策定を開始し、現在、23年度からの運用に向けて準備中だ。新カリキュラムはアウトカム基盤型カリキュラムを基本とし、科目間の縦横の連携を図り、順次性のあるらせん形カリキュラム編成が特徴となっている。
「例年、1点か2点で国家試験不合格の学生が10人前後います。その原因を調査した結果、今までは平均点で進級の可否を決めていたので、できない科目があっても進級することができていました。つまり、理解できていない教科も存在していて、その結果、試験問題が難しくなった国家試験には対応できないことも原因の一つと考えています。また、iPad(アイパッド)の普及で便利になった反面、文字や図をノートに書くことをしない学生が多いことも学習内容が定着しづらくなった原因ではないかと見ています。今年度からは、一人ひとりの学生ごとに1年次から教科の成績を把握するために、各学年に担任、ティーチングアシスタント、学務委員を配置し、試験問題と点数を突き合わせて、なぜ正答できなかったのかの原因を突き止めて学生に知らせる方法を取り入れています。これから成果が出ることを期待しています」
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(2022/08/17 05:00)