ストレスによる脳の変化が原因か
~「痛覚変調性疼痛」(東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター 加藤総夫教授)~
原因不明とされ、適切な治療を受けられなかった慢性痛の中に、心理的・社会的ストレスなどによる脳の変化で生じるものがある可能性が示された。東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター(東京都港区)の加藤総夫教授に話を聞いた。
痛みの分類
◇異常がないのに痛む
国際疼痛学会は2017年、原因不明とされ、3カ月以上続く慢性痛の仕組みの一つとして「痛覚変調性疼痛」を発表した。この名称は、国内8学会が加盟する「日本痛み関連学会連合」として、加藤教授らが日本語に訳した。
痛みには、けがや炎症などが原因で起こる「侵害受容性疼痛」と、けがや手術、帯状疱疹(ほうしん)などで脳に伝える神経が傷ついたために起こる「神経障害性疼痛」がある。
「この二つのいずれにも当てはまらない第3の痛みを痛覚変調性疼痛と呼び、痛みの調節に関わる脳の仕組みの変化が原因と推定されています」
◇脳が痛みをつくり出す
加藤教授らの研究グループは、痛覚変調性疼痛のメカニズムを解明する動物実験を行ってきた。その結果、感情やストレスをつかさどる脳部位が活性化すると、けが、炎症や神経損傷のない部位に痛みが引き起こされることが分かった。
「この扁桃(へんとう)体という部位はストレスや不安、恐怖といったネガティブな感情に関わっています」。このため、心理的・社会的な要因が引き金となり、扁桃体の活性化などの脳の変化を介し、体のさまざまな部位に痛みが起こる可能性があると考えられるという。
「扁桃体以外にもいくつかの脳部位がこのような痛みの調節に関わっています。侵害受容性や神経障害性の痛みとは異なる治療のアプローチが必要なので、専門医の適切な診療が必要です」
加藤教授は、長く続く痛みに対しては、総合的に診療する集学的痛みセンターの受診を勧める。同センターは全国に約40施設ある。
「運動や気晴らしによって、脳が痛みに集中することを避けるのも、痛みの軽減に役立ちます」ともアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2023/11/01 05:00)
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