トイレの備えを万全に
~災害時の健康被害を防ぐ~
◇避難生活にリスク
呼吸器系の感染症だけでなく、ぼうこう炎など尿路感染症の恐れもある。尿の頻度が減ると、腎盂(じんう)腎炎や尿路結石になる場合がある。「尿は常に出ていないと、体に不調を来す」と谷口医師は言う。一方、不衛生なトイレで用を足すと、別の危険性も。「靴の裏に細菌やウイルスが付着し、感染症を引き起こす。また、汚物の処理が適切にされていない場所では、空気感染もある。例えば大腸菌、溶連菌、サルモネラ菌。ノロウイルスやロタウイルスといったウイルス性胃腸炎の患者が発生すれば、感染力が強いため、避難所の隔離措置といったことにもつながるだろう」(谷口医師)。
こうした状況で、食事の偏りによる栄養不足も手伝って免疫低下を引き起こすと、感染症の拡大を抑えることが一層難しくなる。谷口医師は「集団で送る避難生活では、ちょっとした雑菌でも感染が広がりやすい」と憂慮する。
脱水による血栓症にも要注意だ。血液量が減少すると、避難生活で活動量が落ちることもあり、血液がドロドロになり流れが滞る。谷口医師は「深部静脈血栓症や肺塞栓症などエコノミークラス症候群発症の可能性が高まる。ふくらはぎの静脈は血栓ができやすく、肺に回ると命の危険がある」と言葉を強める。同じ姿勢で長時間座っているのではなく、散歩するなど少し体を動かす。もちろん水分補給を忘れず、脱水状態にならないようにしたい。
1日のトイレ使用回数の平均は大人が5回だという。一つの絵画に30回分収納されており、1人で使う場合は約6日分となる
◇日常生活と防災対策の両用に
災害が起こる前に、簡易トイレや携帯トイレの備蓄をしっかり行いたい。国土交通省のサイトでは、東日本大震災の発生後3時間以内に3割の人がトイレに行きたくなったというNPO法人の調査結果を紹介している。また、同震災時に3日以内に仮設トイレが避難所に行き渡ったと回答した自治体は3割だという。トイレ環境の確保は、自分たちで行うしかないということが分かる。
一般社団法人「地域防災支援協会」の三平洵代表理事は「日常の中で防災対策を取り入れることをお勧めしたい」と話す。イベントなどの企画・運営事業を手掛けるドリームホールディングス(福岡市)が開発した、絵画の中に簡易トイレ30回分を収納する商品は、2016年の熊本地震、17年の九州北部豪雨でそれぞれ被災した社員が企画。アート作品として楽しめる「飾る備え」を商品化した。
「被災時は、普段当たり前に使っていたトイレが使えなかった。心理的にもストレスを感じた」と、体験を生かし商品を作ったドリームホールディングス社の藤村彩央里さん(左)と石井琴子さん
「車中泊をしている時、使おうとした公衆トイレは汚物が積み上がり、とても使えなかった」「トイレがある1階が土砂で埋まり、丸1日我慢した」―。避難生活で切実に感じた「これがあればよかった」「防災グッズは奥にしまっておく物ではなく、すぐ手の届く場所にあるべき物」といった思いを実現した形だ。
三平氏は「トイレの備えは健康にも関わっている。意外と知られていないが大事なことで、こうした形で普及すればいい」と評価。谷口医師も「トイレが安心して使えると、水分補給が十分できる。備えが避難生活の悪循環を断ち切ることになる」と話す。(柴崎裕加)
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(2023/10/05 05:00)
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