安易な抗菌薬使用控えて
~薬が効かなくなる薬剤耐性(国立国際医療研究センター病院 藤友結実子室長)~
本来治療効果があるはずの薬が効かない、あるいは効きにくくなる薬剤耐性(AMR)。主な原因は、抗菌薬(抗生物質)の不適切な使用で、耐性菌を体内に増やしてしまうことだ。国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)AMR臨床リファレンスセンターの藤友結実子情報・教育支援室長に聞いた。
風邪に抗菌薬は不要
◇風邪に抗菌薬は不要
人間の皮膚や腸、鼻、口などには多くの細菌が存在し、体のバランスを保っている。細菌を破壊したり、その増殖を防いだりする抗菌薬は、正しく使えば治療効果が高い。一方、抗菌薬は標的となる細菌以外にも影響を与える。抗菌薬を用いると、細菌側が抗菌薬に対抗する仕組みを作ることもあり、抗菌薬が効きにくい、効かない耐性菌が増えるリスクがある。
「風邪の原因はほぼウイルス。細菌に効くように開発された抗菌薬を飲んでも、早く治ることはありません。不必要な抗菌薬の使用は、かえって体内に耐性菌を増やしてしまう可能性があります」
通常、風邪による熱は2~3日で下がり、せきは1~2週間、鼻水は1週間から10日で自然に治まる。風邪は抗菌薬を飲まなくても、時期が来れば自然に治る。
風邪をきっかけに中耳炎を発症する子どもも多い。中耳炎の治療は抗菌薬が必要な場合もあるが、「風邪で抗菌薬を飲んでいると、体内に耐性菌が増え、いざという時に薬が効かず長引いてしまうことがあります」と藤友室長。抗がん剤の治療中の人や病気で手術を受ける人も、耐性菌が原因で感染症の治療や術後の感染予防が難しくなるケースもあるという。
◇感染症予防の徹底を
AMRは世界的に増加傾向で、米ワシントン大などの国際グループの調査によると、2019年のAMRが直接的な原因の死亡は127万人、関連死を含めると495万人に及ぶ。
AMRの拡大を予防するには、抗菌薬の適正使用と感染症対策が鍵となる。「医師の診断で処方された抗菌薬は指示通りに飲み切ります。ただし、取り置きした抗菌薬を自己判断で飲んだり、他人にあげたりするのはやめてください」
風邪に抗菌薬を処方する医師は年々減っているが、患者や家族が希望すれば出す医師は少なくない。「処方されない意味を正しく理解することが重要。そもそも感染症にならなければ抗菌薬の処方も減ります。日頃からせきエチケットと手洗いなど基本的な感染対策の徹底を」と藤友室長は呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2024/06/12 05:00)
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