「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

コロナ5類移行で感染症全体が動いた 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第5回】

 新型コロナウイルス感染症が5類に移行して1年が経過しました。移行後に予防対策が緩和されても、新型コロナの流行状況に大きな変化は起きていませんが、インフルエンザなど、それ以外の呼吸器感染症の流行に影響が見られています。今回は5類移行後の新型コロナと呼吸器感染症全体の状況について解説します。

 ◇コロナに変化なし

 2023年5月8日、新型コロナ感染症法の2類相当から5類に移行されました。これに伴い、政府が国民に感染対策を一律に求めることはなくなり、個人や事業者の判断で実施するようになりました。すなわち、新型コロナの予防対策が大きく緩和されたのです。患者数の把握も、全数ではなく定点医療機関からの報告に基づく対応になりました。

全国のインフルエンザと新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(厚労省ホームページより)

全国のインフルエンザと新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(厚労省ホームページより)

 こうした予防対策の緩和で新型コロナの拡大も懸念されましたが、この1年間は大きな変化なく経過しています。「変化がない」というのは、夏と冬の流行を5類移行前と同程度の規模で繰り返しているという意味です。

 新型コロナの流行が始まってから、国民の多くは感染やワクチン接種により、新型コロナウイルスに一定の免疫を持つにようになりました。このように免疫を獲得した人が多い状況下であれば、予防対策をある程度緩和しても流行が大きく拡大することはないのです。さらに、この1年間はウイルスが大きな変異を起こしていないことも拡大しなかった要因と言えます。

 ◇高齢者はまだ重症化する

 5類移行後の1年間はウイルスの病原性も変化することはなく、若い人は感染してもほとんどが軽症で回復するようになりました。その一方で、高齢者の場合は重症化するケースも少なくありません。

 厚生労働省が発表する人口動態統計によれば、5類移行後の23年5月から11月までの新型コロナによる死亡者数は約1万6000人で、その大多数は高齢者でした。移行前の22年5月から11月は、死亡者数が約2万4000人だったので減少していますが、相変わらず死亡者数の多いことが分かります。

 つまり、高齢者にとって、新型コロナは今も5類移行前と同様に重症化する可能性があり、流行が拡大する冬の季節などには、十分な予防対策が必要になるのです。厚労省も今秋には、65歳以上の高齢者を対象にワクチンの追加接種を行う予定にしています。

 インフルエンザの変則流行

 このように、5類移行後も新型コロナの流行に大きな変化は見られていませんが、それ以外の呼吸器感染症には異変が起きています。

 顕著な例がインフルエンザです。日本では21年、22年とインフルエンザの流行が全く見られませんでした。要因は幾つかありますが、新型コロナ対策で国際交通を止めたことが大きいと思います。

 23年は国際交通がある程度回復し、1~2月には3シーズンぶりにインフルエンザの流行が起こりました。ただ、この時期は新型コロナが2類相当で、国民の皆さんは予防対策を強化していたため、小規模で終わりました。そして、5類に移行した5月以降、インフルエンザの患者が少数ながら発生し、9月に入ってから大きな流行になったのです。これは24年4月まで続きました。

 このように、23年秋から24年春まで長期にわたり流行が続いたのは、過去2シーズンにわたりインフルエンザの流行が無かったためです。それまで、私たちは毎年冬の季節、インフルエンザウイルスの暴露を受けて一定の免疫を得ていました。しかし、コロナ対策によってその機会が無くなり、免疫が低下していたのです。そんな状況下、コロナ対策を緩和したことで、インフルエンザが拡大したと考えられます。

 23年からの流行では多くの国民が免疫を再獲得しており、次のシーズンには例年並みに戻ると思います。

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