慈恵医大の「iCBiofilm法」を利用した透明化試薬「iCBiofilm-D」を東京化成工業が発売 業界で初めてバイオフィルムを生きたまま瞬時に透明化が可能に
東京慈恵会医科大学細菌学講座の杉本真也准教授、金城雄樹講座担当教授らはバイオフィルム※を生きたまま透明化し、深部まで観察可能な技術iCBiofilm(アイ・シー・バイオフィルム)法を昨年1月に開発、当該技術に基づく透明化試薬「iCBiofilm-D」が東京化成工業(株)から5月上旬に発売されます。
※バイオフィルムとは
細菌が分泌する多糖類等から構成されるマトリクスや菌体の集合体などから形成される、人工物や生体組織の表面、または気液界面に存在する膜状の複雑な構造体のこと。
【本製品の特徴】
●厚みのあるバイオフィルムを瞬時に透明にすることで、顕微鏡で深部まで鮮明に観察できる。
●既存のiCBiofilm-Hよりもバイオフィルムの構造維持に優れる。
●細菌や真菌の細胞分裂を阻害せずに、バイオフィルムの形成過程のライブセルイメージング(生きたまま瞬時に透明化)が可能である。
1.概要
(1)慈恵医大による iCBiofilm法の技術開発
従来の光学顕微鏡によるバイオフィルムの観察では、光の散乱や屈折のためにバイオフィルムの表面から20マイクロメートル程度の深さまでしか観察することができませんでした。そのため東京慈恵会医科大学細菌学講座の杉本真也准教授らはバイオフィルムの全体像や内部の微細な構造を観察するため、昨年1月にバイオフィルムを瞬時に透明化できる技術「iCBiofilm法」を開発しました。
(2)従来製品との比較
東京化成工業(株)からは杉本准教授らの「iCBiofilm法」の技術に基づき、「iCBioflim-H1」及び「iCBiofilm-H2」がすでに製品化されていますが、バイオフィルムを瞬時に透明化することは可能であるものの、バイオフィルムのライブセルイメージングを行うことはできませんでした。
今回発売される「iCBiofilm-D」は、従来のiCBiofilm製品の課題を克服し、生きたままのバイオフィルムに添加するだけで瞬時に透明化でき、バイオフィルムのライブセルイメージングが可能となりました。
写真:MRSAのバイオフィルムの形成過程のタイムラプス観察
(3)期待される成果
今回の「iCBiofilm-D」製品化により、バイオフィルムの形成過程や抗菌物質の作用度合いを、バイオフィルムが生きたまま観察できるようになります。バイオフィルムの構造や機能に関する研究が進み、生体内のバイオフィルムによる課題や自然環境下で形成されたバイオフィルムによる課題の克服につながることが期待されます。
iCBiofilm-D製品外観
2.製品情報
発売元:東京化成工業(株)
製品コード:I1275
製品名:iCBiofilm-D
容量:8mL
価格:12,000円(税抜)
発売時期:5月上旬予定
3.開発者からのコメント(東京慈恵会医科大学細菌学講座 杉本真也)
これまで厚みのあるバイオフィルムの観察は難しかったのですが、「iCBiofilm-H」によってバイオフィルムの全体像と細かい構造(例えば、微生物細胞1個1個の不均一なふるまいやバイオフィルムの形成に重要な成分の局在など)を手軽に、かつ、かなり鮮明に見えるようになりました。
一方、固定した状態のバイオフィルムを観察することは、バイオフィルムの一生のうちのある局面しか見ていないことになりますので、バイオフィルムができ始めて、時間と共に成熟し、やがて壊れたり中の菌が死んで行くまでの過程を動画で撮影したいと思っていました。
今回製品化する「iCBiofilm-D」はこのような要望に応えるものだと思います。様々な微生物が作るバイオフィルムをゆりかごから墓場まで観察することで、これまで明らかにされていなかったバイオフィルムの謎が解き明かされるとともに、思いがけない気づきから新たな研究の創発にもつながるのではと期待しています。ゆくゆくはこの技術をバイオフィルムだけにとどまらず、動物の組織や臓器の活動の活写に発展させていきたいと考えています。
以上
(2024/04/23 13:55)