3カ月以降も進行
~術後認知機能障害(東京医科大学病院 合谷木徹教授)~
手術を終えた患者に表れる合併症の一つに術後認知機能障害(POCD)がある。手術の麻酔から目覚めてから1週間以内に起きやすい術後せん妄(意識の混乱)に対し、術後3カ月~1年程度に起きるものをPOCDという。POCDに詳しい、東京医科大学病院(東京都新宿区)麻酔科の合谷木徹教授に聞いた。
術後認知機能障害の予防法
◇60歳以上の10%に
術後せん妄は、麻酔から目覚め、手術部位の痛みや慣れない病室環境下で意識の混乱が起きるのが特徴。通常は1週間程度で症状は落ち着く。
一方、一部の患者は退院後も、記憶障害、失語、日常生活の基本的な動作などが困難になる失行、目の前の物が何か分からない失認、計画を立てその通りに動けない遂行機能障害―などの症状が進行する。これがPOCDで、高次脳機能障害とも呼ばれる。退院後の日常生活の中で軽度に生じるケースも多く、本人や周囲も見過ごしがちという。
「手術を受けた60歳以上の患者の約10人に1人が発症すると言われ、高齢はリスク因子の一つです」
他のリスク因子には、教育レベル、もともとの認知機能障害、アルコール依存などがあるが、手術や麻酔の影響、入院環境下での睡眠不足なども関係しているという。
POCDがそのまま認知症に移行するかについては明確には分かっていないが、関連性があると言われる。「POCDを発症した高齢患者は、1年後の死亡率が上昇することも報告されています」
◇術前から三つの介入
手術前と比べて認知機能に問題が生じたら、早めに精神科や神経内科を受診したい。とはいえ、POCDはあくまで術後合併症の一つであるため、「手術前に全身状態を整えておくことが、さまざまな合併症予防につながり、術後の早い回復や入院日数の短縮も期待できます」。
具体的には、可能な範囲で〔1〕腸内細菌を整えるための適切な栄養摂取〔2〕患者に対する運動療法〔3〕日記付けやゲームなど認知機能に有効な頭の体操―の三つの介入法が重要だという。こうした取り組みは、術前に行う「プレハビリテーション」や、術後早期回復プログラム「ERAS(イーラス)」と呼ばれ、導入する医療機関が増えつつあるそうだ。
「今後も私たち麻酔科医が中心となり、手術前から手術後の全体でPOCD予防に努めていきたい」と合谷木教授は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2024/11/06 05:00)
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