【連載第3回】 話し合いへ、工夫凝らす=柔軟な制度、多様な解決―弁護士会医療ADR
◇書類の取り扱い
医療ADRは裁判と同様に、カルテなどの書類を資料として提出することが可能だ。書類で整理した方が、口頭で説明するよりも主張内容を正確に伝えることができたり、記録に残しておくことができたりするなどのメリットがある。書類は両者の言い分を明らかにし、主張を整理するのに役立つが、他方で割り切れない複雑な思いを文章で表現することは難しく、正確・厳格な表現をし過ぎることでかえって解決を遠ざけてしまう。
裁判手続きと比べると、医療ADRに提出された書類の扱いは、はるかに柔軟だ。裁判では、主張を記載した書面は「準備書面」と呼ばれ、法令(民事訴訟規則83条)で、裁判所と相手方にも同じものを送らなければならないと決められている。ADRではこのような決まりはなく、提出した書類であっせん人に言い分を理解してもらった上で、相手への伝え方を工夫してもらうことも可能だ。
◇話し合い、6割超で和解
東京三会で取り扱った医療ADR事件のうち、2007~14年に終了した346件の審理期間(申し立てから終了までの日数)の平均は202.1日。期日回数(09~14年)は平均3.4回。医療に関する民事裁判の平均審理期間は24カ月前後で推移していることと比較すると、弁護士会医療ADRは、訴訟の4分の1程度の短期間で解決が可能なことが分かる。
和解に至る割合が高いのも特徴で、東京三会の統計では相手方が手続きに応諾して話し合いのテーブルに着いた案件のうち、64.9%で和解が成立している。医療紛争の裁判での和解成立割合が50%前後であるのと比べるとかなり高い水準だ。
話し合いによって相手の言い分や気持ちに納得して申し立てを取り下げる事例もあり、争いが深刻化しないうちの解決も期待できる。(了)
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(2017/07/31 13:09)