医療ADR

【連載第3回】 話し合いへ、工夫凝らす=柔軟な制度、多様な解決―弁護士会医療ADR

 ◇医療紛争の特殊性

 医療ミスを主張する患者側は、診療行為での法的な過失の有無だけでなく、「元の体に戻してほしい」「きちんと経緯を説明して」「何があったのかをしっかりと理解したい」「病院・医師は医療事故と向き合い、今後の教訓にして」などさまざまな思いがある。一方、医療機関側は患者に対し、期待通りの結果が得られなかったことへの申し訳ない気持ち、医療の実情と精いっぱい治療に当たったことを伝えたい気持ちなどがある。

 医事紛争は人の生命に関わる争いだけに、権利・義務の有無といった「理屈の問題」だけでなく、感情のもつれという「人情の問題」が複雑に絡まっている。当事者の思いに十分配慮し、充実した話し合いと納得できる解決がより一層求められているといえよう。

 ◇多くの選択肢

 医療ADRでは、紛争解決の経験豊かな弁護士があっせん人として話し合いをリードし、裁判所での事実認定や法的判断を予測したり、先取りしたりする側面もある。ただ両当事者の歩み寄りと納得を重視。損害賠償を求められるかどうかの判断や賠償金の額だけにこだわらず、当事者の思いに応える幅広く柔軟な話し合いの場の提供を最優先にしている。

 法的判断に必要がないとの理由で裁判では取り扱わないような点についても、医療ADRなら当事者の合意の上で、あっせん人を通じて話し合うこともあり得る。

 損害賠償の法的判断や金銭的評価とは直接関係がない場合でも、医師と患者が向き合って診療経過を穏やかに話し合えるような場を提供することも可能だ。心情を聞いてほしい気持ちが患者側にあるのはもちろん、医療機関側も患者に理解を求めたい思いがある場合が多く、あっせん人が関与して当事者が話し合うことで誤解が解ける例も少なくない。

 解決方法も裁判に比べると柔軟で、選択肢も多様だ。裁判は基本的に損害賠償金の支払いを中心に判断されるのに対し、医療ADRは謝罪や再発防止など、金銭以外の方法も模索される。

 昨今では、裁判でも和解による柔軟な解決を模索する「修復的司法(restorative justice)」の考え方が強くなってはいる。しかし、法律上の根拠が示された書面をもとに証拠などを検討し、責任の有無を判断する民事裁判の仕組みの骨格を変えることは難しく、裁判所の手続きによる審理を尽くした上で、和解に向けた話し合いが行われるのが一般的だ。

あっせん人3人。東京三会方式では多くの場合、医療側代理人、患者側代理人の経験豊富な各弁護士が左右に、真ん中にはあっせん事件の経験豊富な弁護士が座る

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